関係を疑われたら友達ですか?(3)
「………………えっ?」
花菜は、少し恥ずかしそうに頬に手を当てて、もう一度言う。
「だからー、私が一ノ瀬くんのカノジョになってあげようかなって」
「は、はあ?!ちょ、ちょっと待って!え、な、なんで!?」
「えー?だって、一ノ瀬くん、優しそうだしさあ。あんまりグイグイ来そうな感じしないし。いっつもステーキとかお寿司ばっかり食べてたら、たまには夏だし素麺とか食べたくなっちゃう……みたいな?」
一ノ瀬は、素麺みたいなサッパリした感じじゃなく、どちらかというと、うどんとかお味噌汁……って、そうじゃなくて。
「いや、でも、あいつ別にイケメンでもなんでもないし、花菜の好みから全然外れてない!?」
「んー、でも、私ね、一ノ瀬くんと中学が一緒なんだけど、昔はもっと細い眼鏡しててさ。恵理ちゃんは、知らないかもだけど、意外と悪くないっていうかー」
「えっ、そうだったの?」
それは初耳だ。
一ノ瀬からも同じ中学出身だなんて聞いてない。あいつ、なにか後ろめたいことでもあって隠してたんじゃないか。意外と悪くないのも知ってるし、なんなら、私服も悪くないのだって私は知ってるし。
恵理の胸の内を、もやもやとした曇り空が覆い尽くした。
「恵理ちゃんと、一ノ瀬くんは、本当に何でもないんだよね?」
「それは……」
確かに、付き合っているわけではないが。
もし、一ノ瀬に彼女ができたなら、私は友達として、それを祝福してあげなければいけないのだろうか。
一ノ瀬は、女の子にモテるようなタイプではないので、今後もし告白してきたら、まあ、付き合ってやらんでもないかな、くらいに高を括っていたのだが、まさかこんな事になるなんて。
一ノ瀬と花菜が手を繋いで、並んで歩く姿を想像する。仲睦まじく笑いあって、それを私は後ろから眺めて付いて歩く。
……駄目だ。どう考えても応援なんて、出来そうにない。
花菜は、美人で愛嬌もあって、私から見ても女の子らしくって可愛い。なにより、その可愛さを誰よりも自覚している。一ノ瀬なんて、あっという間に骨の髄までしゃぶり尽くされて、捨てられるに違いない。
花菜に、なんて言えば諦めてもらえるのか、必死に頭を働かせていると、その様子がおかしかったのか、花菜は突然、声を上げて笑い出した。
「くふふ、あはははは!ホント、もう、恵理ちゃんって正直だよね、あはは。そういうところが、可愛いんだけどね」
「…………へ?」
「冗談だよ、そんなに心配しなくても、一ノ瀬くんのこと取ったりしないから」
あー、可笑しい、と花菜は、お腹を抱えて笑っていた。
「んな……やっ……違うし!だから、私は取るとか取らないとか、そういうんじゃなくて!」
「あははは、わかったってばぁ。正直なクセに、素直じゃないところも可愛いなぁ、もう」
顔を真っ赤に染めて反論してみせたが、もう何を言っても、手のひらの上で転がされることしか出来そうになかった。
やっぱり、花菜には敵わない。
この子だけは、敵に回さないようにしなくてはと、心に誓う恵理だった。