関係を疑われたら友達ですか?(1)
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夏期講習は、八月一日からお盆前までの平日、十日間ほど続く。
朝から午前の三時間を使って、昼には終わる為、売店や食堂が閉まっていても、特に問題はない。
参加者は各学年ごとに、特別教室に集められ、二年生は全部で70名ほど参加していた。
和樹は、教壇に立って、必死に解の公式を説明する数学の教員から目を離し、窓の外を見た。
今年は災害級の猛暑だとかなんとか、ニュースで言っていた通り、本日も外は死ぬほど暑そうだ。
実際、熱中症なんかで亡くなった方もいるようだし、シャレにならない。
特別教室は、普段、授業を受ける一般教室と違って、冷房が効いているのが救いだ。
こんな中でも、部活動に参加している生徒らは、跳んだり走ったりしてるのだろう。よくやるなあ。
授業の終わりのチャイムが鳴り響く。
夏休み中も、普段通りにチャイム鳴らしてるんだな、なんて考えてると、離れた席から亮太が近づいてきた。
「いっちー、帰りどうする?なんか食べてく?」
「そうだな。たまには寄ってくか。駅のサイゼか、マックか、ラーメンでもいいけど、とにかく空いてる方で」
そう言って、二人して教室を出る。
出る前に、ちらりと教室内を見回すと、天宮はクラスの友人の松永花菜さんと、何か話し込んでいるようだった。
……まあ、夏期講習の間は、駅で待つとかも言ってなかったしな。それに、帰りそのまま友人らと遊びに出かけたりもするかもしれないし。
最悪、メールで伝えることも出来るし、待ちぼうけをくらうという事は無いだろう。
と、いうことは、夏期講習中も天宮と話したりする事はなさそうだな、という結論に至り、やっぱり夏休みなんて早く終わってほしいと、和樹は校舎を出て駅に向かう道を歩きながら思う。
「ねえ、いっちー。俺、いっちーに聞いておきたいことがあるんだけど」
「ん、なに?」
「いっちーって、天宮さんと付き合ってんの?」
「んなっ?!」
あまりに驚いて、和樹は目を白黒させてしまった。
「いっちー、先週の火曜に、天宮さんと二人で映画を観に来てたでしょ。俺も優花ちゃんと一緒に観に行ってたんだよね。そしたらさ、座席シートの同じ列の離れたとこに、いっちーと天宮さん並んで座ってたからさ、これはと思って」
あー、見られてたか。
出る時、見つからなかったから大丈夫だと思ってたのに、とっくに見つかっていたようだ。
「それでしばらく見てたら、一個の飲み物を回し飲みしてるし、ポップコーンも二人で分けたりして。なにあれ、ラブラブじゃん?」
亮太、お前なに見てんだよ、映画を観ろよ……。
「いや、違うんだ。あれは飲み物とセットで頼んだ方が安かったし、二人分買うと高くつくし、ポップコーン余るだろうと思って……じゃなくて、いや、違うから」
「違うって、あれで付き合ってないって言われても、信じられないと思うよ?」
「いや、そう見えたかもしれないけど、本当に、天宮とは……色々あって、友達になっただけなんだよ」
亮太は、尚も訝しげな顔を見せている。
「ふーん、それで、友達同士で仲良く映画観に行ったんだ?」
「いや、映画もたまたまで、天宮が買い物したいって言うから、荷物持ちに付き添いで一緒に行動してただけで」
亮太は、コホンと息を漏らし、人差し指を立てて言った。
「いっちー、世間的にはそれを『デート』って言うんだけど、知ってた?」
「うぐっ……」
「あーあ、いいなあ、いっちー。天宮さん美人だもんなあ」
「なんだよ、お前には優花ちゃんがいるじゃないか」
「それとこれとは別腹っていうかさー」
亮太は、ニヤニヤと笑って脇腹を肘で突いてくる。
「それで?『色々あって友達になった』辺りから、詳しく聞かせてもらえるんだよね?」
和樹は、大きめの溜め息を零す。
……やっぱり、面倒なことになってしまった。