二人で買い物に出かければ友達ですか?(6)
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「毎度ー、ありがとございましたー!」
和樹がレジで会計をしている間に、宮地が食器を片付けてくれていたので、自分は先程お客さんが使い終わったテーブルを布巾で拭いておくことにした。
20時を過ぎて客足も途絶え始めた。
そろそろ店長から、あがりの声がかかるはずだ。
あの後、自分は新快速の電車に乗るため、天宮とは駅で別れた。
荷物持ちとして、天宮の家まで送っていってやりたかったが、バイトの時間が迫っていた為、やむなく紙袋を天宮に渡したのだ。
両手の紙袋は多少、かさばりはしたが、中身はほとんど衣類なので、重いということはないだろう。
今日一日のことを振り返っていると、洗い物を終えた宮地が、苦虫でも噛み潰したような変な顔で近づいてきた。
「先輩、なんか良いことでもあったんですか。さっきからニヤニヤしててキモいですよ」
「宮地……お前、こっちは仮にも先輩なんだから、もうちょい発言に気をつかってもいいんじゃないか。そんなんじゃ、学校で友達なくすぞ」
宮地は、フンッと鼻を鳴らし偉そうに腰に手を当てる。
「先輩ごときに心配される覚えはないですね。私、これでも本音と建前はきっちり使い分けられる女なので」
「その割には、さっきから本音だだ漏れなんだけど」
「ええ、だから使い分けてます」
要するに、俺には建前並べる必要もないってことか……酷い。
そうこうしているうちに、店長から、お前ら帰っていいぞの声がかかる。
宮地は、頭に巻いていた三角巾を取った。
うっすら茶髪に染めた髪が、だらりと垂れ下がった。
「それじゃあ、先輩。先に更衣室、使いますね」
「ああ、どうぞ」
「……覗かないでくださいね」
「いいから。早くしろって」
言って、宮地は更衣室に消えた。
まったく。妹もそうだが、最近の若いのは口の悪いやつばっかりなのか?
宮地は、それでもまだ敬語を使えるだけマシに思える。
和葉なんて、この前もスマホの調子が悪いとかで、カスタマーセンターに電話しているところを立ち聞きしたが、「あ、もしもしぃ〜?あのさぁ、なんかスマホ変でさぁ、壊れたのかね、これどうすりゃいいの?」とか、話してるのを聞いて頭を抱えた。友達かよ。
スマホをチラッと見る。
LINEのメッセージが一件入っていたので、開くと天宮から、「今日はありがとう(ハート)」と送られてきていた。
このハートマークに他意はなく、冗談で送ってきていることは、よくわかっているが、それでも胸の内にむず痒い感覚が広がって消える。
なんて返そうか。帰りの電車で返事を書こう。
夏休みに入ってしまった為、天宮と次に顔を合わすのは、来週から始まる夏期講習までない。
最後に別れた時の、天宮の微笑む顔が思い浮かぶ。
夏休みが早く過ぎて欲しいと願ったのは、初めてのことだった。




