表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友人契約  作者: マリーゴールド
30/60

二人で買い物に出かければ友達ですか?(5)

 上映が終わって、暗くなっていた館内に明かりが戻った。

 和樹は、隣に座る天宮を見る。


「……ひっぐ……ぅう……っ……うぁ……」


 感動して、ボロ泣きしてた。

 まあ、気持ちはわかる、というか、俺もやばかった。

 恥ずかしいから、なんとか泣かないように我慢したが、たぶん目が真っ赤に血走っているに違いない。

 まあ、天宮はそれどころじゃなさそうだが。


「あ、天宮……大丈夫か?」

「ヒぅ……ぁ、うん。ごめ……私、ちょっと……化粧直してくるぅ……」


 天宮は席を立ち、出入り口のほうへ吸い込まれていった。

 俺も、顔洗っておくかな……。



 ――――――――――――――



 二人並んで映画館を出る。

 時刻は16時を過ぎたところだった。

 このまま真っ直ぐバイト先に向かえば、ちょうどいい時間だ。


「はあー、やばい。めっちゃ泣いた」

「そうだなー、結構、感動し……えっ?」


 和樹は天宮を引っ張って、すぐ隣の雑貨店に入り、姿を隠して映画館の出入り口のほうを見やる。


「ど、どうしたの、一ノ瀬?」

「……亮太がいる」


 えっ、と驚いた様子の天宮を後ろにやって、もう一度確認した。

 やっぱりいる、亮太と、彼女の中谷さんだ。

 二人は手を繋いで、仲睦まじく笑い合いながら、駅の方向へ歩いていた。

 どうやらあの二人も、たまたま同じ映画を観ていたようだ。

 別に、何もやましいことはないので、隠れる必要はなかったのだが、成り行きとはいえ、天宮と二人きりで映画を観に来ていた姿を見られれば、まず間違いなく誤解されるし、面倒なことになる。

 幸い、亮太たちは二人の世界に入ってしまっているのか、和樹たちに気づくことなく駅のほうへ姿を消した。

 和樹は、ホッと胸を撫で下ろし、後ろにいる天宮へ視線を戻す。すると、天宮は顔を紅潮させて俯向きがちに、和樹を見ていた。


「あのさ……一ノ瀬……」

「えっ、なに?どうかした?」

「その、だから……手が……」

「手?」


 見ると、和樹は右手でしっかりと天宮の手首の辺りを握りしめていた。

 慌てて、パッと手を放す。


「わっ、ごめん!慌ててたから、その、つい……」


 言いながら、和樹も顔を赤く染める。

 さっきまで握りしめていた右手の平に、じわりと汗をかくのを感じた。

 天宮は、和樹が掴んでいた手首をさすりながら、短く「別に……」と、視線を逸らしたまま呟いた。


 沈黙が、場を満たす。

 二人の間に流れる微妙な空気に、和樹が何も言えずにいると、天宮がおずおずと切り出した。


「一ノ瀬……時間、大丈夫なの?」

「あっ」


 時計を見る、そろそろ駅に向かわないとまずい。

 視線を戻すと、天宮と目が合った。

 少し恥ずかしそうに笑う天宮に、自分も同じ顔を返す。

 二人の間に、いつもの空気が流れた。


「帰ろっか」


 そう言って、二人で駅に向かった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ