二人で買い物に出かければ友達ですか?(4)
「はぁー美味しかった。一ノ瀬、これからどーする?」
パスタ専門店を出て、天宮が尋ねた。
ショッピングモールで買い物してる時は、あまり会話もなく、なんとなくぎこちない様子だった天宮だが、昼飯を食べ始めてからは、いつもの様子に戻ったようで、表情もいくぶん柔らかくなった気がする。
和樹は時計を見る。まだバイトまでは時間もあるし、別にこのまま帰って解散してもいいが、そうしたくないのは、天宮も同じであって欲しい。
「少し散歩して見てみよっか」
一ノ瀬は商店街のほうを指差して、天宮もそれに同意する。
商店街は、観光客向けのお土産や、有名キャラクター商品の専門店だったり、手作りのストラップなんかを露店販売していたり、並ぶ店舗に統一性がなく見るものを楽しませる。
二人して映画館の前を通り過ぎようとした時、知らない男性から声をかけられた。
「あ、ねえ。そこの君たち。これ、よかったら貰ってくれない?」
話しかけてきた男性は、自分たちより少し年上の、たぶん大学生くらいだろうか。
受け取ってみると、それはこの夏に話題のドクターヘリをテーマにしたドラマの劇場版のチケットだった。
しかも、二枚ある。
「え、これって」
「ああ、もうすぐ上映なんだけど。彼女……一緒に観る予定だった人を怒らせてしまって。帰っちゃったんだよね、ははは……」
そういうと男性は力なくうなだれる。
「それで、このままじゃ折角買ったチケットも無駄になるし。よかったら、貰ってくれないか?」
「うーん……どうする?天宮」
隣にいた天宮に尋ねる。
上映時間から換算すれば、アルバイトの時間には間に合う。話題の映画で、個人的にも和樹は興味がある内容だったので、いずれ観たいとは思っていたものだ。
天宮さえよければ、この機会に観ておきたいが。
「私はいいよ。これ、前から観たいと思ってたやつだし」
天宮の同意も得たので、和樹は財布から二千円取り出して、男性に向き直る。
「じゃあ、これ、譲ってもらいます」
「えっ、別にお金はいいよ。どうせこのままだと無駄になるだけだし」
「いえ、それじゃ僕の気が済まないので。せめてこれくらいは」
一ノ瀬が頑なに出した二千円を引っ込めないので、男性は最初、戸惑いながらも渋々それを受け取った。
「うん、そうだね。それじゃ、これは受け取っておくよ。すまないね」
「いえ、こちらこそ、ありがとうございます」
男性はそう言い残し、ショッピングモールのほうに向かって歩き出した。
「なんか、ラッキーだったね」
天宮が嬉しそうにはにかむ。
チケットの上映時間まで、もう間も無くだ。
「行こっか。もうすぐ始まるみたい」
そう言って、二人で映画館に入っていく。
「あ、そうだ。お金、半分……」
「いや、いいよ。これくらいは。それよりこれ、場所わかる?4番って書いてるんだけど、どっちだろ」
一ノ瀬が映画のチケットを天宮に渡すと、天宮は指差して言う。
「あれじゃない、ほら、あっち」
「あ、ほんとだ。じゃあ、行こ」
「一ノ瀬ってさ、意外と頑固だよね」
「え、そう?」
「そうだよ。まあ、お金にルーズよりはいいと思うけど。あんなにはっきりとモノを言うところ、初めて見たよ」
「ああ、だって、受け取ったものに対しては、それに見合うだけのものを返すべき、じゃないかなって思うから」
「真面目だね。将来ハゲるよ」
「怖いこと言うなよ!?」
そう言って、天宮は愉しそうにケタケタ笑った。