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友人契約  作者: マリーゴールド
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アドレス交換をすれば友達ですか?(5)

 

 ――――――――――――――


 部屋でくつろいでいた一ノ瀬和樹は、机の上のスマホをちらりと見やる。

 天宮と話している時は、妹の買い物に付き合わされるのと同じ、くらいに考えていたが、時間が経つにつれ、これってやっぱりデートなんじゃないか、という考えに至っていた。

 当たり前だが、一緒に行く相手が妹と天宮では、まるで意味が違ってくる。

 いや、でも天宮はどう思っているんだろう。

 リア充の考えなんてさっぱりわからない。

 例えば、仲の良い男女四人がBBQをするとしよう。

 待ち合わせの時間に遅れた二人をおいて、男女二人で先に買い出しを済ませてしまう、といったシチュエーションなら、付き合っていない男女二人でも買い物に出かけるのは、自然なことなんじゃないだろうか。

 なんとなく、ドラマとかのシーンに、そういうのがあったような気がする。

 例えば、彼女へのプレゼントを選ぶために、彼女の親友の女にアドバイスしてもらうため、二人で買い物に出かける事はあるんじゃないだろうか。

 妹の持っている少女漫画にそんな話があった気がする。ちなみに、その話では、二人で買い物しているところを彼女に見られて勘違いされたりしていたが。


 つまり、リア充にとって、仲の良い男女二人が買い物のために街へ繰り出すことは、ありふれた、ごく自然なことなんじゃないか。

 そう、だから、天宮はこれをデートとは思っていないに違いない。

 危ないところだった。

 あやうく勘違いしてしまうところだった。


 とはいえ、街中で、半日ほど天宮の隣を歩くことになる。

 天宮は、たぶん普通にお洒落な格好をして来そうだ。

 少なくとも、この前あいつの家にお邪魔した時みたいな、Tシャツにハーフパンツみたいな油断した格好では来ないだろう。

 となると、こちらも天宮に恥をかかせない程度には見られる格好をした方がいいはずだ。

 しかし、困った。

 何を着ていけばいいんだ。

「デートに浮かれて精一杯お洒落してきました、って感じないような、華美過ぎず、しかし地味過ぎない格好」をすればいいわけだ。どんな格好だよそれは。

 時刻を見れば21時を過ぎていた。あまり時間はかけていられない。

 仕方ない、こうなったら一ノ瀬家のオシャレ番長に助言を頂くとしよう。

 和樹は、部屋を出て隣の部屋、「和葉」とネームプレートの掛けられた扉を叩く。


「おーい、和葉いるかー」


 ガタッという物音の後に、ガチャリと扉が開く。


「ん、お(にい)、なんか用?」


 妹の明るい金髪の頭が覗いた。

 ひとつ下の妹の和葉は、風呂上がりで濡れた長い金髪を、肩にかけたタオルで拭いていた。

 和葉は女子にしては背が高いほうだ。

 和樹と同じか、あるいは、ちょっとだけ負けている気がするので、身長について詳しくは聞いていない。

 悔しいので聞く気もない。


「悪りぃ、ちょっと相談に乗って欲しいんだけど。明日さ……友達の女の子と買い物に出かけるんだけど」

「えっ、なになに、お兄、彼女出来たの?ウケるんだけど」


 なぜ兄に彼女が出来ると笑いがとれるのか、問い詰めてやりたかったが、今日は喧嘩をしに来た訳ではないのでグッとこらえる。


「いや、彼女じゃないんだけど。まあいいや、いつもお前の買い物に付き合う時とか、なんか適当に服とか選んでくれるだろ。どんな格好していけばいいか、アドバイス欲しいんだけど」


 和葉は、ふぅん、とこちらを見透かすような目で見てきてから、「いいよ」と短く答えた。


「部屋、入っていい?」

「ああ、うん」


 和葉は、部屋に入ると洋服ダンスを適当に開いて一通り見た後、白とグレーのストライプTシャツに、カーキ色の綿麻パンツを選んだ。


「これでいいんじゃない?どうせお兄とデートするような女なんて地味ぃな地味子ちゃんでしょ?普通の格好しとけば失礼にはならないっしょ」


 お前のその言い草は失礼極まりないけどな、と言いたいところだが、ちゃんとアドバイスはくれたので、ここは抑えて感謝をしておいた。


「あのさ、お兄、デートなら、その眼鏡はやめた方がいいよ。コンタクトにするか、あ、ほら、休みの日にたまに掛けてる細いほうあるじゃん。せめてあっちにしといたら?」


 部屋を出る時、和葉は振り返ってそう言い残し、扉をパタンと閉じた。

 和樹は、黒縁の眼鏡を手に取る。

 そんなにこの眼鏡って駄目なのかな。

 そういえば以前から、この眼鏡のせいでオタクだと思われていたことがしばしばあった気がする。

 実は、結構気に入ってるんだけどな……。


 時刻は、22時になるところだ。

 天宮から明日の時刻に関するメッセージは、まだ届いていない。

 こちらから、何かメールしてみるか。

 なんてメールしようかな、とスマホを睨みつける和樹だった。


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