アドレス交換をすれば友達ですか?(3)
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アナウンスと共にやってきた電車に乗り込むと、冷房の効いた涼しい空気が全身を冷やした。
天宮恵理は、いつものように一ノ瀬の隣に座り込む。
夏の暑さと疲労により重くなった腰を下ろせば、次に立ち上がるのが非常に億劫だ。
出来ればずっと、このまま座っていたいなあ、という気持ちに駆られる。
隣を見やると、一ノ瀬は暑そうにパタパタとポロシャツの襟の部分をつまんで仰いでいる。
さっきはびっくりした。
急に「彼氏いるの?」なんて聞いてくるもんだから、「じゃあ俺と付き合う?」とかなんとか言われるのかとドキドキした。
まあ、結果、全然違ってて期待して損したけど。
「ねえ、一ノ瀬さあ。突然だけど、明日って暇?」
「うん?なんで?」
「夏休み入って、由紀たちと色々遊びに行く約束してるって話したでしょ?それでさ、その前に服とか色々と準備しておきたいんだよね」
一ノ瀬は、ふぅんと視線を泳がせ、何かを一考した後、こちらに視線を戻す。
「うん、いいよ。明日、何時にどこ行けばいい?」
「えっ」
「買い物に付き合えばいいんだろ?17時からバイトだから、それまでに済むならいいよ」
なんだか、やけにあっさりとオッケーを貰ってしまって、恵理はたじろいだ。
「えっ、ホントにいいの?」
「あれでしょ、色々買うから荷物持ちが必要なんでしょ?俺、よく妹の買い物に付き合わされてるし、慣れてるから。どこ行くかとか、決まってるの?」
「あ、うん、ハーバーランドとかモザイク周辺見て回ろうかなって」
「そっか。時間は?」
「それよりさ、一ノ瀬……」
恵理は手に持っていたスマホを、助さんだか格さんみたいに、これが目に入らぬかとばかりにかざした。
「いい加減、アドレス交換しない?」
「ああ、うん。そうだな。そのほうが連絡取りやすいよな」
なんか、さっきから「荷物持ちが必要だから」とか「そのほうが連絡取りやすいから」とか、いちいち言い訳がましく感じるのは、私の気のせいかな。
二人で出かけるのだから、普通に「じゃあデートだな」くらい言えばいいのに。
スマホを操作して、アドレス交換をしながら、恵理は大きめの溜息をもらした。
わかってはいたが、道のりは険しそうだ。