アドレス交換をすれば友達ですか?(2)
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駅の改札口で亮太たちと別れてホームに向かう。
階段を下りると、すでに天宮はいつものベンチに腰を下ろし、小さめの団扇で暑そうに扇いでいた。
教室を出るときに、チラリと室内を見た時は、天宮はまだ友人らと談笑しているのを確認したのだが、どこかで追い抜かれたらしい。
和樹は近づいて天宮に声をかけた。
「おつかれさん」
「あ、一ノ瀬、おつかれー」
天宮がトントンと隣の椅子を叩くので、そこに座った。
「夏休みだね。一ノ瀬は、なんか予定立ててんの?」
「いや、特には――――バイトと、夏期講習くらい、かなあ。天宮は?」
「私は由紀たちとプール行って、BBQと、あと、お盆は毎年おばあちゃんの家に遊びに行くし、今年も多分行くかなあ」
さすが、リア充の夏は忙しいな。
というか、自分が予定なさすぎるだけのような気もするが。
そういえば、天宮は彼氏いないのかな。
なんとなく、いないつもりでいたが、確かめたことはない。こうして二人で帰ったり、部屋の中まで招かれたりしているので、いないだろうとは思うのだが、リア充の思考は、たまに和樹の常識を凌駕するのでいないとは言い切れない。
それに、天宮は自分のことを異性として数えていない可能性がある。
そう考えれば、彼氏がいたとしても、これまでの行動に一応は納得もできる。
だけど、もし、自分が彼氏だったら、クラスメイトとはいえ、見知らぬ男と二人きりで下校したり、彼女の部屋で一緒に過ごしたりはして欲しくない。
うん、やはり、一度確認しておいた方がいい。その上で、彼氏がいるというのなら、もっと節度を持って自分と距離を保つべきだと、注意してやらねばならないだろう。
「ねえ、天宮」
「ん?なーに?」
「天宮って、彼氏いるの?」
「へっ?!な、なんで?」
天宮は予想外の質問に動揺している様子だ。
「いや……そういえば、そういう話はしたことなかったなと、思って。それで、どうなの?」
「いや、まあ、今は、その……いないけど」
天宮は、なぜか顔を赤らめて、ちらちらと視線を送ってくる。
「なんで、一ノ瀬は、そんなこと、気になったの?」
天宮の様子に、和樹は自分も顔に熱を帯び始めていることに気づいた。
「なんで、って言われても……あ、ほら、亮太も三好も彼女いてさ、夏休みはどこ遊びに行くとかって話してたから。天宮は、そういうのないのかなって……」
「ふぅん……そっか……」
そう言ったきり、天宮はスマホに目を落とし、いつもの仏頂面で黙り込んだ。
自分は、そんなに変な質問をしただろうか。
よくよく考えて、はたと気づく。
異性に付き合っている人がいるかどうかを聞く、という行為は、あなたのことが気になっています、と言っているようにも受けて取れるということだ。
もしかして、天宮は和樹が告白でもしてくるんじゃないかって、緊張して顔を強張らせていたのかもしれない。
それは誤解だ。
しかし、今更そんな弁明してみせても、かえって怪しまれるに違いない。
こんなことで、天宮の信用を失うのは本意ではない。
以後、言動には気をつけようと心に誓う、和樹だった。