アドレス交換をすれば友達ですか?(1)
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月曜日。終業式。
と言っても、三学期制の学校と違い、学期の終わりではない為、厳密にいうと終業式は秋頃にあり、今日は夏休みに入る事前の集会に過ぎない。
校長の挨拶や生徒指導の先生からの、あまりハメを外し過ぎるなというありがたいお言葉を頂戴し、解散した。
教室に戻ると、各々グループに分かれてそこかしこで喋っており、和樹はいつものように亮太と三好の会話に混じった。
この後のHRが終われば夏休みということもあり、いつも以上に教室内は沸いていた。
「はぁー、月曜だけ出席して夏休み入るならさあ。金曜で終わらせて土日連休入ればよくない?」
亮太が不満を漏らすと、三好もそれに同意する。
自分も、去年までならそう思っていたはずだ。
しかし、今は全くの逆で、最後に月曜が残っててラッキーに感じたし、なんなら、夏休みに入れば退屈な毎日がしばらく続くという事に憂鬱すら感じている。
「そういえば、みよちんバイト決まった?」
「はい、夏休みの間だけ短期で。音楽のライブイベントの会場設置とか、人の誘導とかする仕事に」
イケメンはアルバイトひとつ取っても華やかでいいよな。かたや音楽ライブのスタッフで、こっちは小さなうどん屋の店員だ。
いや、自分で選んだバイト先だし、別に不満があるわけではないが。
「和樹は、夏期講習は参加することにしたんですか?」
「うん。どうせバイトは夕方からだし、亮太は強制参加だろうから」
「さすがいっちー!オォ、心の友よーォ」
そう言って抱きつこうとする亮太を両手で制する。
「暑苦しいからやめろ」
「はぅ、いっちーそういう時、本気で嫌そうな顔するよね……わりと傷つくかも」
「えっ、本気で嫌がってるんだけど」
ぐはぁ、と悲鳴をあげて机に突っ伏し撃沈する亮太だが、無視する。
まあまあ、と困ったような顔で三好がなだめた。
「亮太は、夏の予定は何かあるんですか?」
「ふっ、みよちん。よくぞ聞いてくれた!今年の夏は優花ちゃんとコミケ行くんだあ!しかも泊りがけで……ふひひひ」
優花ちゃん、とは少し前に駅で会った亮太の彼女だ。
亮太は、待ってろよビッグサイト俺はヤルぜぇーと気合を入れたり、フヒヒと気持ちの悪い笑い声をあげたり忙しい。
和樹は、優花ちゃん、今からでも遅くはない、悪いことは言わんから考え直したほうがいいんじゃないか、などと友達甲斐のないことを考えていた。
「そうだ、みよちん!みよちんも行こうぜ!彼女誘ってさあ、ダブルデートしようぜえ」
「うーん、僕は行きたいですけどねえ。真由香がなんて言うかなあ」
そういえば名前を聞いたことがなかったが、三好の彼女は真由香というらしい。
ていうか、そうだった。二人とも彼女いるんだな……。
なんとなく気づかないフリをしていた事実に直面してしまい、気持ちが一気に沈められた。
目前に迫る夏休みを前に、期待に胸を膨らませる二人とは裏腹に、和樹の胸の内には焦燥感が渦巻いていた。
高二の夏は一度しか来ないんだぞ、お前はそれでいいのかと、とてつもなく大きな見えない何かに急かされているような気持ちになる。
夏休みなんて、別に来なくていいのに。




