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友人契約  作者: マリーゴールド
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きっかけがあれば友達になれますか?(2)

 高校に入学して、しばらくした後、廊下で彼とすれ違った。私はとても驚いたけれど、なんとなくこうしていつか会えるんじゃないかって、確信のようなものもあった。あの横顔を忘れた日はない、彼は、あの日私を助けてくれた人に違いなかった。

 何度か、廊下ですれ違ったり、目が合ったりもしたけれど、彼は私のことを忘れているようで、話しかけてくれることはなかった。

 すっかり声をかけるタイミングを失ってしまった私に、チャンスが訪れる。

 二年になり、同じクラスの、しかも後ろの席に彼が座っていたのだ。

 あの日、顔を真っ赤にして助けてくれた彼は、きっと勇気を振り絞って声をかけてくれたに違いない。

 私も、勇気を出して声をかけなくては。

 ちゃんと感謝していることを伝えたい。

 だけど、あの日から随分と時間が経ってしまっていて、彼はその事実すら忘れているかもしれない。同じクラスになった見知らぬ女が、いきなりあの時はありがとうございました、なんて言い出して、変に思われるのも嫌だ。

 どうしたものか、と考えている時、古いドラマの再放送をテレビで観た。内容は、美人なのに目立たない女生徒を、イケメン二人がプロデュースしてクラスの人気者にしようとする、というものだった。

 なんとなく私は、これだ、と閃いた。

 彼は、クラスではオタクグループと仲良くしており、どちらかといえばパッとしない、目立たないタイプの男の子だった。

 でも、私はずっと彼のことを見てきた。

 あの野暮ったい眼鏡とか、真っ直ぐおろしただけの髪型とか、なんとかすれば充分に見られる顔になると思った。彼と知り合い、『友達』になって、色々とアドバイスをしてあげれば、きっと薔薇色の青春時代をエンジョイしてもらえるに違いない。

 そう考えた私は、さっそく便箋を用意して彼の引き出しに忍ばせたのだった。


 あれから、『友達」になってから、一ヶ月が経った。

 最初はぎこちなかったけど、一緒の電車で帰るようになって、いろいろな話をした。

 意外と気が合うことも知ったし、今日は初めて私服姿を見たけど、存外悪くなかった。

 クラスでは席が近いのに、特に話をしたりしないけど、それも秘密を共有してるみたいで悪くないかなって思った。

 いつのまにか、週末が待ち遠しくなって、月曜日が楽しみだなんて初めて思った。

 この前の金曜は私の方が遅れて駅に着いたのに、待っていてくれて、嬉しくて思わず顔がにやけてしまった。

 電車に揺られて触れ合う肩に、眼鏡の奥の優しげな瞳に、ドキドキさせられて、つい、スマホに目を向けて誤魔化したりした。

 この気持ちをなんと呼ぶのか、私はとっくに知っていた。

 だけど、彼は少しもそんな素振りを見せない。

 今日だって、せっかく部屋に招き入れたのに、普通におしゃべりして帰ってしまった。

 私ってそんなに魅力がないのかな。ちょっと自信をなくしてしまいそうだ。

 中間考査も終わって、まもなく夏休みだ。

 そろそろ次のステップへ、行動を移そうと思う。

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