表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
友人契約  作者: マリーゴールド
2/60

宣言すれば友達ですか?(1)

 ふと、教室の窓のほうに目をやる。

 開け放した窓の向こうには、どんよりとした薄灰色の空が広がっており、潮の香りと共に送られてくるジトジトとした湿気を孕む空気は、春の終わりを告げていた。

 予報によると、週末には本格的に梅雨入りをするそうだ。


 一ノ瀬和樹の通う向洋高校は、都心にほど近い沿岸部に建っている。

『都会の海に臨む校舎』なんて言えば、なんとなくお洒落な雰囲気をイメージしがちだが、夏は湿気に蒸し暑く、冬は海風に冷たく晒され、一年を通して吹き続ける潮風は、髪のトリートメントを容赦なく傷つけるとかで女子には不人気だ。

 道路ひとつ挟んだ街路樹の向こう側には海浜公園があり、この春に付き合い始めたカップルのデートスポットにもなっていたりするが、あいにく和樹にそのような機会はなく、今後もその場所に足を運ぶ予定はなさそうだ。


 クラスメイトは大きく分けて二種類に分類される。すなわち、『リア充グループ』と『非リア充グループ』だ。

 前者は、男であればいわゆるイケメンだったり、メジャーな運動部に所属するものやレギュラーで活躍するものたちで構成されたりするが、まあ、大抵は顔の良し悪しで決まる。

 一年次より、どの部活動にも所属せず、いまいちパッとしない顔立ちに、黒縁の眼鏡が決定打となったのか、和樹は気がつけば『オタク』のレッテルを貼られていた。実際には、なにかひとつの分野に特に熱中している、といった事は無いのだが、そんな情報は彼ら彼女らにとって重要ではなく、結局のところ、見た目がオタクっぽい奴はオタクだし、オタクとつるんでいる奴は、やっぱりオタクなのだ。


 六限目の終わりを告げるチャイムと共に、教員は板書の手を止めた。

 起立、礼。

 残すはHRのみであり、ガヤガヤと周りの生徒たちが帰り支度を始める。

 今日も、なにひとつ代わり映えのしない一日が過ぎようとしていた。

 一年ほど前、入学したての頃は、自分とて新しい生活に少なからず心躍らせたりもした。しかし、そんな淡い期待は一か月も経たないうちに、春の陽気とともに無散した。

 それは学年が二年に上がっても同じだった。


 毎日が変わらないのは、変えようとしなかったからだということは重々承知しているが、自分のような日陰者が悪あがきをしたところで、結果は知れているし、精々『キョロ充』なんて揶揄されて惨めな思いをするのが関の山だ。

 自分は、そうまでして『リア充グループ』にしがみつこうという気概も、行動力も持ち合わせてはいなかった。

 分相応。人にはそれぞれ、身の丈に合った生活スタイルがあるのだ。

 平凡を絵に描いたような自分の両親でさえ、恋愛して、結婚して、家庭を築いている。

 自分も、今でなくてもいずれは、そういう機会が巡ってくるかもしれない。無理にあがこうとせずとも、流れに身を任せていれば、人生なるようになるだろう。


 和樹は、そう思っていた。

 今日、この日までは。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ