家族公認なら友達ですか?(6)
「ねえ、覚えてる、かな……」
天宮は不安げな表情で伺うように尋ねてきた。
覚えてる、と言われても、なんのことかさっぱり思い浮かばない。この校章は自分と何か関係があるのだろうか。そういえば自分の校章はどこにやったか、たぶん部屋のどこかにしまい込んであると思うが、中学生をしていたのは二年も前の話で、はっきりとは思い出せない。
「あー……うん。これ、ウチの中学の校章だよね?天宮は原西中だと思うんだけど……」
そう言うと、天宮は諦観したような、残念そうな顔をして目を伏せる。フゥ、と一息つくとこちらに歩き出した。
「……ううん、なんでもないの」
そう言って、校章の入れられたケースは天宮によって蓋をされてしまった。
「そういえば、傘、届けてくれたんだね」
天宮は、顔を上げて話を切り替えた。
「ああ、うん。なんか、本当は返すだけのつもりだったんだけど。突然お邪魔することになってしまって、悪かったよ」
「いいよいいよ。どうせお母さんが無理矢理連れ込んだんでしょ」
そう言って笑う天宮は、校章のことなどすっかり忘れているようだった。
「そうだ、一ノ瀬はさ、夏期講習どーすんの?」
「あー、まだ考え中。亮太が強制参加だと思うから、俺も付き合ってやろうかと思ってるところ」
「そうなんだ。私も、由紀たちが参加することになると思うから一緒に行くと思う」
由紀、というのはクラスで天宮がいつも一緒にいる目立つグループのメンバーのひとり、竹内由紀のことだ。
天宮が参加するなら、自分も参加しようかな。
ごく自然な流れで、そんなふうに思っていた自分に、和樹は愕然とした。自分はいったい何を期待してしまっているのか。
天宮は美人だ。実際、かわいいと思ったことは何度もあるし、話してみれば意外と気が合うことも知った。
クラスでは仏頂面で愛想のかけらもない彼女が、帰り道には、あんな風に笑いかけてくれる。色々な表情を見せてもらえる。そのことに優越感のようなものを感じていたことも、認めざるを得ない。
しかし、自分は違う。彼女に差し出せるような魅力が、自分にはひとつもない。ネガティブな思考とか、そんなんじゃない。これは冷静に分析した、率直な自己評価だ。
それに、この気持ちは天宮への裏切りだ。自分と天宮はあくまで『友達』であり、天宮はそれを望んでいる。天宮を悲しませるような真似は、したくない。
和樹はそう結論づけると、自分の胸に湧いた感情を、ギュッと胸の奥に抑え込んだ。