家族公認なら友達ですか?(5)
「えっ……?」
和樹と目が合った天宮は、石像のように固まった。
天宮はTシャツに白のハーフパンツ姿で、髪は後ろにゴムで一纏めにしただけという油断しきった格好をしていた。化粧も、学校で見るより控えめなのか、いつものようなキツい印象は受けない。
「天宮、その、お邪魔してます……」
「なっ……え!なん……でぇ!?」
天宮は、わなわなと震えていたが、自分の姿に気づいたらしい、ハッとなって「ちょっと待ってて!」とだけ言い残し、バタバタと二階に上がってしまった。
「あらまあ、恵理ちゃんいい反応ねえ。やっぱりうちにあげて正解だったわ。うふふ」
「はあ……」
和樹の隣に腰を下ろした天宮の母親は、とても愉快そうにクスクス笑っていた。
「一ノ瀬くんは、恵理ちゃんと付き合っているのかな?」
「えっ!?いえ!全然。ただのクラスメイトの……友達です」
「あら、そうなの?残念……いえ、楽しみ、かしら。うふふ」
天宮の母親は、よく笑う人だった。
あいつも半分はこの人の血を引いているのだから、もう少しくらい愛想よくしてればいいのになあ、なんて考えていると二階から天宮が下りてきた。
「一ノ瀬、私の部屋、二階だから」
そう言って、半分開いた扉の陰から顔だけ出して手招きをする。
言われるがままついていくと、天宮は灰色のトレーナーワンピースに黒のレギンスという格好に変わっていた。髪や化粧はそのままのようで、さすがに時間なかったらしい。突然お邪魔するのは、やはり失敗だったな。怒ってなきゃいいけれど。
天宮に連れられて、二階の部屋に入る。
天宮の部屋は、きちんと片付いている印象だった。
いや、今急いで片付けたんだろうが、たぶん普段から片付いているのだろう、本や化粧品など綺麗に揃えてあるし、棚には写真や貴金属類が飾ってある。
部屋全体は黒を基調とした飾り気のない、落ち着いた感じで、年頃の女の子の部屋にしては大人な印象だった。
「へえ、落ち着いた感じの部屋だね」
「あんまジロジロ見ないでよ。その辺、適当に座って」
言われて、テーブルの側に腰を下ろした。
そのまま絨毯の上に座ろうとしたら、天宮がどこからか座布団を持ってきてくれたので受け取った。
「俺の妹の部屋は、もっと散らかっててぬいぐるみが散乱してるよ」
「あー、ぬいぐるみ、あるんだけど全部押し入れの中だよ。埃被るからさ」
お茶とってくるね、と言って天宮は部屋を出ていった。
妹を除けば、初めて女の子の部屋に入ってしまった。
まあ、あんまり女の子の部屋って感じはしないので幾分かマシだが、緊張するし、ドキドキもする。
その時、なんとなく棚に飾ってあるものが目に止まった。立ち上がって近づく。
それは、イミテーションリングとか飾っておくようなケースに入っていた。
「うん?ウチの中学の……校章?」
見覚えのある、それは確かに和樹が通っていた鷹尾中学の校章だった。天宮の家は和樹の家から近いところにあるが、川を挟んで学区が違うため、天宮とは中学は別のはずだ。
あいつ、原西中のはずだけど。なんでここに鷹尾中の校章が?大切そうに保管してあるし、もしかして彼氏との思い出の品とか、だったりするんだろうか。
そう考えた時、なんだか鳩尾辺りをグリグリと押されているような、心の内が嫌な感じに疼いているのを感じていた。
「一ノ瀬、それ……」
いつのまにか、天宮がお盆を持って部屋に戻ってきていた。