家族公認なら友達ですか?(4)
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和樹がおそるおそる呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてインターホンから声が返ってきた。
「はーい、どちら様でしょう?」
「すみません、天宮、あっ、え、恵理さん……の友人の、一ノ瀬和樹です」
「はーい、少しお待ち下さーい」
……うっ、今の、天宮のお母さんかな?そういえば、お姉さんもいるって言ってたな。緊張して、少し声が上擦ってしまった。
和樹は左手に小さな紙袋を持っていた。中には赤い折り畳み傘と、バイトの帰りに駅で買った小さな菓子折りが入っている。
傘を借りたくらいで大袈裟かとも思ったが、一応、雨に濡れずに帰れたわけだし、感謝の意を示すためのものだ。
ガチャ、という音と共に、家の中から現れたのは、おっとりと柔らかそうな、落ち着いた印象の年上の女性だった。お母さんか、お姉さんだとは思うが、見た目だけでは判断しづらい。
「あの、これ、恵理さんから借りていて」
「あら、わざわざごめんなさいね。恵理にはちょっと夕飯の買い出しに出かけてもらってるんだけど、もうすぐ帰ってくるから、あがって待っててもらえるかしら?」
「えっ、いや、あの、これ返しに来ただけなので」
和樹は紙袋を差し出したが、まあまあそう言わずにと、押し切られて招かれてしまった。
言われるがままにリビングのソファーに座らされる。
「あの、恵里さんの、お姉さん……ですよね……?」
「あら、うふふ。一ノ瀬くんは口が上手なのね」
違ったらしい。てことは、母親か。いや、若過ぎないか?他人の母親というのは、若くて綺麗に見えるもんなのだろうか。
天宮のお母さんは、今お茶を出しますね、と言って居間のほうへ引っ込んでいった。
部屋を見渡す。広さは和樹の家のリビングと変わらないが、ウチはもっと物に溢れているので、そのぶん広く感じられた。
片付いていて、いつでも客人を招き入れられるお家というだけで立派なことだなと思った。
しかし、困ったな。言われるがまま家の中まで入ってしまった。ていうか、母親も不用心すぎないか?娘の友達と言っても、見ず知らずの男をうちに招き入れるというのは、ちょっと。
天宮のお母さんは、のほほんというか、ぼんやりしてる感じの人で、つい守ってあげたくなる感じだった。
「あいつ、父親似だな……」
ボソッと独り言をこぼし、息をつく。
天宮のお母さんが、居間からお茶とお菓子を盆に乗せて戻ってくると、玄関のほうから扉の開く音とガサガサとビニール袋の鳴る音が聞こえてきた。
「ただいまー」
天宮の声だ。