家族公認なら友達ですか?(2)
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「はーい、そこまで。裏返して後ろから送ってください」
金曜。三限終了のチャイムと共に、教員が試験終了のお知らせをした。
一週間かけて行われた中間考査もようやく終わりを迎えた。教室内では安堵のため息や歓喜の声が上がる。
少し離れた席から「終わったぁ……いろんな意味で終わったわぁ」という亮太の声も聞こえてきた。
和樹は、早々に筆記用具を片付けて席を立った。
未だに机に突っ伏している亮太に声をかける。
「亮太、終わったこと気にしても仕方ないだろ。とっとと帰ろうぜ」
「まあ、そーね。帰りますかー」
三好にも声をかけ、三人で教室を出た。
「試験、どうでした?」
「みよちん、俺には聞かんでくれ。いっちーは?」
「うーん、まあまあ、かな」
勉強時間の不足は否めない。もう少し時間を割いて勉強していれば、それなりの点数が取れたように思えるが、自分はアルバイトもしているし、まだ前期の中間考査ということもあり、まあ、こんなもんだろう、というところに落ち着いたはずだ。
「三好は、どうだった?」
「僕も、まあまあですかね」
三好はそれなりに成績の上位の方だったはずだ。
ということは、結構出来てるわけだな。まあ、自分ももう少し取れたかなと思うくらいだし、今回の試験はそれほど難易度の高いものではなかった気がする。
平均点、上がりそうだなあ。
「やっぱり夏期講習は俺だけ参加かあー。ねえ、いっちー。暇なんでしょ?一緒に勉強しようよぉ……」
「あー、そうだなー。考えとく」
「うわー、これ絶対行かないやつじゃん!いっちーの薄情者……」
そう言って、亮太はがっくりうなだれた。
駅に着く。改札を抜けてホームへ向かう。
亮太と三好は反対方向なのでここで別れた。
階段を下りてホームへ。
今日は金曜日だ。しかし、いつものベンチに天宮の姿はなかった。
この蒸し暑い中、駅で待たせるのも悪いと思って早めに学校を出たが、天宮はまだ来ていないようだ。
天宮がそうしているように、和樹はベンチに座ってスマホを取り出す。
漫画アプリを開いて続きを読みながら待つかと思ったら、突然、頬に何かを押し当てられた。
「うわっ、冷たっ!?」
顔を上げると、天宮がお茶の入ったペットボトルを片手にこちらを覗き込んでいた。
頬に触れる指先に、ひんやりとした感触が残る。
「よっ、一ノ瀬。試験おつかれ!」
「ああ、うん。おつかれ」
「飲む?」と言って天宮はペットボトルを渡しながら、隣に座った。
和樹は、曖昧に返事しながら受け取ったが、このお茶、飲みかけだ。
飲んでいいものか、迷う。というか、渡してきたのは天宮なんだから飲んでいいってことなんだろうけど。
でもこれ、間接キスじゃん……。天宮は気にしないのかな。亮太や三好相手なら気にしないが、さすがに女子のは……いや、天宮も友達なんだから、亮太や三好と同じように気にする必要はないんだ。
いくらか逡巡していると、天宮が「飲まないの?」と急かしてきた。
ここで断るのもおかしいので、気にしない、気にしない、と心の中で唱えつつ、和樹はお茶に口をつけた。
「あっ、間接キスだね」
「ぶっ!!ゲホゲホっ!!」
「やだ、一ノ瀬、汚いよ」
「おま……変なこと言うなよ!咽せたじゃないか」
人が折角気にしないようにしてたのに、こいつは。
和樹は恨めしく天宮を睨みつつ、ペットボトルを返すと、天宮は特に気にするでもなく、口をつけてお茶を飲んだ。
「ふぅー、それにしても暑いわね。まだ七月なのに」
「……くそぅ、なんだろう、この敗北感は」
アナウンスとともに電車がホームに来たので、いつものように乗り込んだ。