相合い傘をすれば友達ですか?(1)
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「一ノ瀬、おつかれー」
「……おつかれ」
次の月曜も、階段を下りてホームを歩いてると、ベンチに腰を下ろしている天宮に会った。
その金曜も、そのまた次の月曜も、天宮は駅のホームのベンチに座ってスマホを眺めていた。
今まで一度も会わなかったのに、ここの所ずっと駅には天宮の姿があった。まあ、二度あることは三度あると言うし、これまでは気づかなかっただけで、実は同じ車両で帰っていた事がしばしばあったのかもしれない。
そして、車内に乗り込むと、やはり当然のように天宮は隣の席に腰を下ろした。
列車が揺れると、たまに肩が触れ合う。その度に、自分はビクッと跳ね上がりそうになり、心臓がドキドキしてしまうのだが、天宮は特に気にするふうでもなさそうだった。そういえば、イケメンの三好もやたらボディタッチの多い奴な気がするし、リア充というのはパーソナルスペースが狭い奴が多いのかもしれない。
自分みたいな日陰者は、異性に触れられただけで恋に落ちかねないし、なんなら挨拶されただけでも好きになりかねない繊細な生き物なのだ。もう少し距離感に気を遣ってほしいものだ。
スマホに目を落とす天宮の横顔を盗み見る。
柔らかそうな睫毛、整髪料の香り。つり目がちなその瞳は、教室で見るよりは幾分か柔らかく、気が緩んでいるように見えなくもない。あまりにも自分とは違いすぎて、世の中にはこんな美人もいるんだなあと、どこか他人事のような、よく出来た人形を眺めているような気分だった。
あの日、天宮と友達になると約束をした。彼女に下心を見せるのは、その信用を裏切ることになる。しかし、そんな心配は無用なようだ。異性として意識するには、彼女と自分はあまりに遠い存在だった。
まあ、とにかく。友達になるのだから、肩が触れたくらいで動揺していてはいけない。
きっとこれは、代わり映えのしない日々を変えるため、自分自身を変えるための試練なのだと自分に言い聞かせて、心を新たにする和樹だった。