第3話:仲間入り
「かーれーんーちゃぁぁぁあん!!!!」
建物に入るなり一人の男が叶恋さんに抱き着く。
金髪を鎖骨あたりまで伸ばした青い目の男。
その左頬には炎を模したような赤い模様がある。
「煩い、離れろ、暑苦しい。」
辛辣さが心なしか氷雨サン相手よりも酷い気がする。
それでも男は表情を崩すことなく、笑っている。
「おや?新しい子かい?
俺は陽炎。よろしくね。」
ゆるい。
なんていうかこの男、なんだかゆるい。
…その割には何一つ読めないようなそんな感じの人だ。
「これでもうちのトップだから。
でも敬う必要なんてないわ。形式だけよ。」
「叶恋ちゃんきーびしーい。
まぁうちの組織には上下関係あんまりないからねぇ~。」
"組織"か。
まったく予想していなかったわけではないが…。
「政府が関与してるだけの自由な組織だよ。
時々頼まれごとをすればお給金も出る、年齢制限なし副業オッケーなホワイト企業!
まぁ、"力"さえあれば、ね。」
「せ、政府…!?」
政府関与なんてどんな企業だよ!!!
「おかしくないわよ。連中は私たちを利用したい。
私たちも諸事情で庇護が必要だった。
…貴方も、今はわからなくとも必要となるコネクションよ。」
叶恋さんのその言葉に心当たりはまったくない。
でもこの人がそういうなら、とすでにそう思っている自分がいた。
「ここに居れば、知れますか?俺自身のこと。」
陽炎サンは相も変わらずにこーっと笑う。
「ウン、普通ならわからないこと、ここでならわかるハズだよ。」
あー、この人苦手だ。
氷雨サンとは違う意味で、読めない。
でも、それでも俺の答えは変わらない。
「俺を…ここに居させてください!!」
「モチロン!歓迎するよ!
…ところで、君の名前は?」
これがマンガかなんかだったらズッコケる場面だろう。
叶恋さんなんて額をおさえて「ばか…」とか呟いてる。
…確かに俺はまだ自分の口で名乗っていないことに気づいた。
「春来燕、高1、16歳、よろしくお願いします!」
迷いなく自分はそう自己紹介した。
感じた違和感には気づかないままで。
「燕クン、ね。16歳なら小春と一緒だね。」
ここにはまだ、他にもいるらしい。
「貴方が思っていた"空色の太陽"の子よ。」
あぁ、彼女か…って今この人なんて言った?
「空色の太陽!!いいね!詩人だね!!今度小春に言ってやろう!!」
陽炎サンは大爆笑している。
「ちょっ…やめてください!!恥ずかしいんで!!!」
我ながら何なんだよ空色の太陽って…。
一瞬で黒歴史入りだわ。
…でも確かに思ったんだ。
太陽みたいな明るい髪に空色の瞳に、そう、思ったんだ。
「あー、はずかし…。」
俺多分今すっげぇ顔赤い。
燃え上ってる。むしろ俺が太陽だわ。
とか思考が迷走している。
視界の端で叶恋さんが肩を震わせている。
…見たな、あの人。
「ごめんごめん、太陽くん。いや、表層に出すぎてて…。」
やっぱり笑っていた。
彼女は一息ついて、
「でもね、嫌いじゃないよ。
そう思ったのなら、それでいいの。」
何がいいんだかさっぱりわからない。
「あー、そういえば小春は?」
…話そらしたな、この人。
でも確かに気になる。
追ってきた(なんて大っぴらに言えないが)彼女の姿が見えないのだ。
「あぁ、小春なら"お菓子買ってくる!"って言って飛び出していったよ。」
陽炎サンがわざと高い声を出してそう言う。
「"食べたい気分なだけなんだからね!"って。」
なんて男から聞いても…何だろう。腹が立つ。
「貴方がやってもかわいくないわよ、陽炎…。」
叶恋さんのその言葉を聞いて安心した。
なぜだか腹が立つは正常な思考回路なんだと。
そうこうしているうちに扉が勢いよく開いた。
入ってきたのは橙色の髪を結い上げ空色の瞳の…あの、少女だった。
両手に袋を下げて「たっだいま!」といって笑っている。
「で、君は誰?」
まぁ、そりゃそうだろう。道ですれ違った人の顔をいちいち覚えている方がすごいと思う。
特に俺みたいな平々凡々な顔なんて…あれ、言ってて悲しくなるぞ。
こんな個性あふれる人たちの中で逆に浮いていたであろう異質の俺が目についたようで。
声をかけてくれただけありがたいものとする。
叶恋さんあたりがほほえましくみてる気がするけどまったく意図が読めない。
きっとからかうに違いない。
「あー今日からお世話になります、春雷燕です。よろしく。」
「ふーん?あたしは初凪小春。
まぁ、これから仲間になるんだしよろしくしてあげるわよ!」
これはなんだか友好的なのかそうでないのか微妙な感じだな…。
そう戸惑っていると
「あ、あたしお菓子盛り付けてくる!!
叶恋ちゃん!お茶入れて!お茶!!」
と半ば叫ぶように奥へと消えていった。
「ふふ、はいはい、準備しとくわねー!」
と先ほどのように準備を始める。
「本当は貴方が来ることわかって楽しみにしてたみたいね?」
そう耳打ちされて赤面する。
それってつまり、他人でしかなかったその時点で俺のことをちゃんと認識してくれていたわけで。
一目惚れってこんな感じなのでしょうか、神様。
そう一人心の中で呟く16の夏…なんて。
その後戻ってきた彼女を含めお茶会をしている。
「まぁ、こんな感じで基本的には暇してるわ。
依頼の方はいろいろあるけど、まぁそこまで危険なものは振らないと思うし安心してちょうだいな。」
危険なもの、やっぱりあるのか…。
「その危険を制御したいがために囲われてるわけだからな。
ここには俺らで全員だが、強力な能力を持つ者もいる。」
「それらを管理するのも目的ってワケさ。」
俺の心を読んだらしい氷雨サンとその言葉に付け足す陽炎サンの発言になんだかおもしろくない感情になる。
この人たちはそれでいいのだろうか。
「たとえ偉かろうが関係ないわ。
でも決して信じてはいけないよ、誰のことも、ね。」
「それって…」
叶恋さんの言葉はどこか引っかかる。
「まぁしばらくは教育係ってことで小春をつけるわ。」
さっきとは打って変わって面白いものを見るかのように笑っていう。
「ちょっと!それあたし聞いてない!!」
いきなりで反論したい気持ちはわからなくはない。
「えーっと、嫌だった?」
さすがに気になる子にそういわれるのは、傷つく。
もうそりゃ盛大に。
「べ、別に、あんたがいいならいいけど…。」
とぷいっとそっぽをむく少女に何となく、わかった気がした。
所謂あれじゃないか?あの、ツンデレってやつ。
「じゃあよろしくな!小春!」
と笑ってみせる。
「き、気安く呼び捨てすんな!ばーか!!」
うん、前途多難かもしれません。