表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/35

第12話:青年は、

「叶恋、ちゃん…。」


燕クンたちと別れて階段を昇る途中、足が止まる。

僕は、怖いんだ。

現実と向き合うのがどうしようもないくらいに。

卑怯で臆病なそんなどうしようもないやつ。


最初は神様だと思った。

地獄から僕らを救ってくれた神様。

でも本当は、僕らとおんなじただの人の子。

僕らよりも小さな、女の子。


そんな彼女が大切だと思ったのはいつだったか。


ただ、僕らは間違った。

恩を仇で返した。


それでもあの日彼女が僕の手を取ってくれたから。

今でも、近くにいてくれるから。


僕は勘違いをしていたのだろう。


アイツとおんなじ金色の髪。

アイツとおんなじ目の色。

アイツと似たような背丈の高さ。


アイツと重ねられたとしても、この人のそばにいられる。

それが何よりも甘美な現状だった。


それなのに。


彼女は知っていた。

彼女はわかってた。


僕は、とんでもない道化じゃないか。


先に進まない僕を見る彼女は呆れている様子だった。


「ねぇ、陽炎。

 …姫城(あの女)は、最後まで醜かったわ。」


それは僕にも当てはまる、ひどく冷たい言葉だった。


「人間らしいっちゃ人間らしいわよ。

 欲望の塊、自己中心的な考え方。」


僕は、彼女を見ることができなかった。


「あの人の仇がすべてあんな奴だったらいいのにって、思っちゃったもの。」


事が解決すれば、僕は断罪される。

やっと、償える、とまで思ってしまう。

そんな自分の浅ましさに嫌気がさす。


「私は貴方をあの人と重ねたことは一度もないわよ。

 だって、ずっと気づいていたもの。」


救いようのない思考だったのだ。

彼女と過ごしてきた時間を思い、苦しくなる。


「ねぇ、陽炎?」


僕を呼んで彼女は僕の顔を固定して目を合わせる。


「許さないと決めていた、でもね?

 貴方見ていて痛々しいのよ。」


彼女はどこかつらそうな、そんな表情なのに、笑っていた。


「わかっていて、知っていて、その手を取った。

 許しはしない、憎みもしない。

 でも、貴方と過ごした時間は嫌いじゃなかったのよ?」


「叶恋…ちゃん…。

 ごめ…っ」


ごめんねは言葉にならなかった。

彼女の手がバチンといい音を立てて僕の両頬を鳴らす。


「なんて顔してんのよ。

 あんたはいつもみたいに笑ってりゃいいのよ。」


いつの間にかいつもの強気な彼女の顔に戻っていた。


「今は目の前のことだけ、考えてればいいじゃない。

 それもきっと、つらいでしょうけれど。」


目前に迫る半身との確執。

彼女の言う通り、向き合うのは、怖い。

それでも。


「ウン、もう逃げないよ。

 変わらなきゃ、変えなくちゃいけないもんネ。」


どうしてこうなったのか。

それすら理解できない僕はきっと薄情で最低な人間なんだ。

自分勝手にやってきた。

同じ過ちを犯した癖に僕だけのうのうと平穏を甘受してきた。


会えばわかるだろうか?

話せば伝わるだろうか?

幼いあの日にはもう戻れないけれど。


僕は階段を上り始める。

今のままではいられない。

変えなくちゃならないことがある。


僕より小さい子たちが頑張っている中、僕だけが自分勝手だったんだ。

僕よりも重い運命を背負うあの子のことを考える。


見つけなくちゃいけないことがある。

抗わなくちゃいけないことがある。

それは決して逃げることはできない運命。


「やっとらしい顔になったんじゃないの?」


そう笑う彼女が大切だから。

あの日逃げ出した家族が大切だから。

大切なものは少しずつ増えていった。


だから覚悟を決めなければならない。


結末がどちらに転ぶかはわからない。

それで、僕らが散るとしても。


X.5話にする予定が微妙な長さ+微妙に重要な話になってしまい12話に。

書いている途中で陽炎が暴走しました。

もう、彼がわからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ