第9話:敵との衝突、不穏な仲間
「てか。どうやって入るんすか?」
正面切ってはいるのか、はたまた裏口?
いつかの女みたいに壁に大穴開けて入る?
この人たちなら何でも出来すぎて逆にわからない。
「ん、そうだねぇ…」
叶恋さんは一度目を閉じて歩き出す。
「うん、ここだね。」
そういってたどり着いた場所はなんとも微妙な位地の何の変哲もない壁の前だった。
「さっきの質問に答えるよ?
もちろん、ドアから入る。」
叶恋さんが壁に手をつくとそこには扉ができていた。
「はい、どうぞ。」
彼女が作り出した扉に鍵なんてかかっているはずもなかった。
…セキュリティもあったもんじゃねぇ!!!
こんなの忍び込み放題だ。
もっとも彼女にそれをする必要はないのだろうけれど。
なにせ文字通り何でも手に入る能力なのだから。
その扉をくぐった先でなんだか甘ったるいにおいがした。
そこには藤色の髪をした女が立っていた。
「あら、こんなとこまでご苦労様。」
長い髪をハーフアップのツインテールにしたなんだか気位の高そうな女だった。
「私は姫城夢華、偉大なる夢魔の血を継ぐ夢の華。」
そういった女…姫城が手をかざすと世界が暗転する。
どこかで感じたことがある感覚だった。
それはまるで、この人たちと出会ったあの日のような。
瞬間緊張が走る。
確かに敵地で敵が能力を使ってきたんだ。
ましてやそれが最強と謳われる夢魔の能力だというのだから当然である。
「(でも…これは…?)」
姫城の能力を認識したであろう瞬間、背後から恐ろしい感覚が襲う。
そう、後ろから、なのだ。
冷汗が噴き出す。
「…ここは私に任せて進んでもらえるかしら?」
叶恋さんが歩き出す。
この人が恐ろしい、逃げ出してしまいたい、初めてそう思った。
「…っ叶恋ちゃん!!!」
陽炎サンがなんだか焦ったように止めようとする。
「陽炎、貴方に止める権利はない。
当事者だもの、わかっているでしょう?」
その一言に陽炎サンは動揺を見せる。
「叶恋ちゃん…知ってたの…?」
叶恋さんは答えない。
恐らくそれが、答えであるのだろう。
「とにかく、ここは私が闘う。
すぐ追いつくからさっさと行きなさい。」
「そんなことさせると思ってるぅ?」
姫城は蔑むように笑って言う。
「ええ、できますとも、ほら。」
叶恋さんがそういった瞬間、俺たちは黒の世界から追い出されていた。
「とりあえず…進もうか。」
陽炎サンは表情を見せることなく歩き出す。
「…いったい、何があったんですか?」
聞かねばならない、そう思った。
今回の件に深くかかわることだと。
「…僕が…僕たちが、罪を犯したってことだよ。」
その声色は酷く悲しげで、この人が悔いているのであろうことは、伝わった。
「…僕たちが、彼女の最愛を、壊したんだ。」
それ以上は聞くに聞けなかった。
そこからはひたすら、道を知っているであろう陽炎サンの後を追って走った。
ふと脳裏で
「決して信じてはいけないよ、誰のことも、ね。」
と言った叶恋さんの声を思い出す。
それくらいに、何を信じればいいか混乱するには十分だった。