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病院の幽子さん

幽霊だって笑うわよ

作者: ねこの珠水


 幽霊って寝る必要がないもんだから、時間がいっぱいありすぎるの。

 暇にまかせてふらふらしてると、あちこちでいろんなことを見聞きするのよね。



 昨夜は当番の看護師さん、とても大変そうだったわ。


 5分おきにナースコールを押す人がいたんだけど、その理由が『寂しくて』。

 確かに入院って心細いから、気持ちはわかるんだけどね。


 看護師さんが話してるのを聞いて、どんな人なのかと見に行ったら、これがまあ。

 プロレスラーでもしてるのかしらというくらいの、恰幅のいい男の人。

 ナースコールに応えて看護師さんが行くと、蚊の鳴くような声で、

「すんません。寂しくてたまらないっす」


 なんかもう、そのギャップがおかしくて、口元を押えながら病室から退散したわ。


 あら、幽霊だって笑うのよ。


 今日笑ったのはねぇ、逃げ回る先生を見たときかしら。


 長く入院されてるおばあちゃんがいるんだけど、お孫さんに教えられて、インスタ、っていうのをはじめたらしいの。

 病院の食事を撮っては載せていたらしいんだけど、それだけじゃあ単調だし。といって入院してると、載せるようなものってないじゃない。


 で、看護師さんや先生とのツーショット写真を載せようと考えたんだって。

 お世話になっている看護師さん、担当医の先生だけでなく、別の科の先生も含めた全員との。


 だけどなかなか凝り性で、構図やポースにうるさいもんだから、撮るのにかなり時間がかかるのよね。

 写真に撮られる看護師さんは、ひたすら笑顔でポーズのリクエストに応えないといけないし、シャッターを押すのを頼まれた看護師さんのほうも、おばあちゃんが気に入る写真が撮れるまで何枚も撮らないといけないしで、大変なの。


 だから、特に忙しいときなんか、いかにおばあちゃんから逃げるか、に看護師さんたちは苦心してるようで、「逃げられるように、だれか一緒に行ってー」なんて声を聞いたりするわ。


 それで、榎本先生なんだけど。

 あの先生、いつも髪の毛ぼさぼさでしょう。

 でもおばあちゃんは、きれいに髪の毛を整えた先生との写真を撮りたいの。だから、わたしがきれいにしてあげる、ってハサミを持って追いかけるのよ。


 だから先生ってば、おばあちゃんのいる階に来るときは、廊下の端からこっそり顔を出して、

「いる?」

 って看護師さんにささやいて、さささっと通ってゆくの。

 それがもう、抜き足差し足忍び足でね。

 あんまり情けない様子だから、ちょっと笑っちゃったわ。


 そうそう榎本先生といえば。


 高校生の男の子が、頭に野球のボールを受けて、救急搬送されてきたでしょう?

 そう。あの頭蓋骨骨折しちゃった子よ。


 あの子が榎本先生に、

「先生、頭が割れるように痛いんです」

 って訴えたらね、先生ってば、

「それは『割れるように』痛いんじゃなくて、『割れてるから』痛いんですよ」

 なんて答えてて。


 それに男の子も、

「そうか、そうでした!」

 なんて納得してて。

 あれにはしばらく笑いが止まらなくて困ったわ。



 ……でも。

 そのとき、看護師の渡部さんがいてね、じーっとあたしのほうを見ていたの。

 あたしの姿が見えたのか、笑い声が聞こえたのかはわからないけど。


 ただ、あたしのいる場所を見据えていたのよ。

 ――にこりともせず、怖がりもせず。



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