〜小さなSOS~
どこに行っても…一人なんだ。
土砂降りの街を、宛てもなく走る。制服がずぶ濡れで、重みを増す。それと同時に心の内にも何かが増していった。
「うわっ!」
走る事は相変わらず苦手で、足がもつれ、転けた。
膝に痛みが走り、立ち上がる事が億劫になった。
普段は肉体的刺激なんて、どうだっていいのに。それよりも辛いのは…孤独を感じてしまう事だった。
何故だろう?いつからだろう?こんな虚無感に絶望したのは。
いつしか何が不幸で幸せなのか、判断出来なくなっていた。
「……帰ろう。」
私は自分の中で蠢く何かを潜在的に押し潰すように立ち上がる。力なく歩みを進めるその足は、家へは帰らなかった。
『ねぇ、あの子…怖くない?』
誰かのその一言で、一人の少女へのイジメは始まった。
俺のクラスに居る陰気な少女、門脇 夢美[カドワキ ユメミ]はいつからか虐められる様になっていた。
俺には具体的な理由は分からない。だが、何故だか放っとけない。
「おい、何見てんだよ。あ、門脇?気になんの?」
ボーッとしていたら友人に声を掛けられた。
「は?な、何でだよ」
彼の興味津々な表情に思わず顔を逸らす。
「図星なら素直に言えよ。まぁ正義心とかがありゃ気になるわな」
彼女が虐められている事は皆知っている。友人はどうやら俺が彼女の事を救いたいと考えている、と思っている様だ。
「正義心とかじゃなく」
「あぁ、恋心ね。青春!」
俺の言葉を遮り、友人は面白そうに言う。その言葉に、イジメのリーダーが俺の方を睨んだ気がした。邪魔をするなと言わんばかりの鋭い眼差しだった。
「敵にしたくないな。ああいうの、メンドクサそうだし」
その鋭い眼差しの意味を感じ取ったのか、友人はそう言った。
「俺は別に…イジメなんて誰がやってもやられても、その場に訪れる状況は同じだろ」
「ふ〜ん。ターゲットがお前じゃないからそんな事言ってられんだよ」
友人は少し冷たい瞳で俺を見た。まるで自分がイジメを体験した事があるような口ぶりだ。
俺は鞄に教科書などを入れると、イスから立ち上がり言った。
「でも可哀想だな、虐めている方も…虐められている方も」
「助けてみろよ、そんなにカッコいい事言うんだったら」
「そうだなぁ」
友人の言葉を真に受けず、適当に返すと俺は廊下に出た。教室から出ると、汗がにじみ出る。気持ちの良くない季節だ。
だから少し、気持ちが良くなることを、したかったのかもしれない。命の恩人なんて壮大なものにはなりたくはなかったが。