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KOOL NIGHT

作者: 岡田悠丞

あらすじにも書いてしまいましたが、

現代文学・私小説に挑戦しました。

難しい言葉が好きなのですが、地の文から平易な文章で書いてみた次第です。


説明不足、敢えてぼかしている箇所もありますが、お読み頂けたら幸いです。


将来的には作家を目指しているので、皆さまからコメントを頂戴できると大変有り難いです。


無様に居場所を求め続けるユウスケの、短い旅をご覧ください。

「KOOL NIGHT」


 見てはいけない。目を合わせちゃだめだ。やめとくんだ。

 家を出て、アミと二人でほのかに夏の匂いがする空の下を歩いている時だった。歩道の隅に二人組の男がいた。一人は自転車にまたがっている。

 気になる。

 でも今の僕は女連れだし、相手は二人だ。しかも片方は身体が大きい。僕は小さいじゃないか。おい、だめだって。目を合わせるな。

 ほうら、やっぱり向かってきたじゃないか。

 こういう時、見ちゃいけないと思っていても、絶対に見てしまう。それに、「やばい」って感じた時も、その予感がよく的中する。授業中に教師が誰かに問題を解かせようとする。どの生徒を当てようか迷っている間、少しでも「俺っぽい!」なんて考えてしまうと、必ず僕が当てられる。

 あ、いよいよ目の前まできたぞ。

「おまえ、今見とったっしょ?」

 ほら、きたよ。見ちゃいかんのか、と思ったが、それは言わないことにした。もっと返し易いことを言ってくるまで黙っていよう。

「なめとんの?」

 はい、なめてます。君らみたいなヤンキーとか、超なめてます。いや、こいつヤンキーなのかな? ギャル男かもしれない。でもどっちも混ざっているよな。うーん、じゃあこうしよう。ヤンギャル。ああ、でもそれだと女になるのか? ややこしいな。でもこいつ、女々しいな。女連れに絡むなんて最低だよね。そろそろ何か言わないと怒るかな? よし、言おう。でも、僕は自尊心が強いのに、今隣りにいるアミは彼女でもなんでもないけれど、一応女の子だし、ケンカとかになったらどうしよう? 自分の自尊心を守りつつ、アミを逃がすにはどうしたら良いのだろうか? もうわからない。適当に返事をしよう。

「急になんなの? 見ちゃいかんの?」

 なんか中途半端になってしまった。しかも結局、「見ちゃいかんの?」と返してしまった。

「おまえ気に入らんな。ちょっと裏こいや」

 不良漫画とかでありきたりな返答をされてしまった。

「裏じゃないとできないことなんですか?」

 えっ、アミどうしたの? 何でそんなに強気なの。違うじゃん。言ってしまったな。こんなことを言えば、単細胞そうなこいつは激昂するに違いない。言ったアミも、僕の服の袖を掴んで離さない。

「おまえらふざけとんなよ!」

 怒鳴りやがった。アミがなんか泣きそうになっている。これは不味いな。なんとか僕の自尊心を傷つけずに、こいつらをあしらう方法はないだろうか。ないな。じゃあ、一旦僕らが引こうか。ありがとうアミ、久々に僕の役に立ったな! やったじゃん!

「よくわからないけど、僕ケンカとか嫌いなんで」

 努めて申し訳なさそうに言った。

「逃げんの?」

 ここで初めて自転車に乗ったチビが口を開いた。なにニヤニヤしているんだ。

「すみません、彼女を送っていかなきゃならないし、悪気はなかったんです」

 くやしい。くやしいけど、ここは我慢だ。

「もういいわ、おまえ」

 でかい方、ヤンギャルが笑いながらそう言った。じゃあ最初から絡むなよな。いったい僕に何を期待しているんだ。チビの方が、チビっていっても僕よりは背が高いのだけど、自転車にまたがり直しながら罵声を浴びせてくる。

「バーカ」

 この時、僕の中のどす黒い気持ちは、一気にヤツに傾いた。


「変な人たちだったね」

 アミを駅まで送って行く途中、彼女が言った。

 変というか、栄か、かえって田舎の方に行くとよくいる、典型的な半端ヤンキーだと思った。思ったが、先ほどの情けない姿を弁解しようとも思わない。アミにそんなことをする必要もない。けれど、むしろアミのような普通の人にとっては、さっきのように絡まれても、上手く逃げる方が大人なのだろう。だけどさ、僕は子どもだから。アミはそういうところ、わかってくれないんだな。それで良いのだけどさ。

「じゃあ、またね。向こうの駅で、さっきの奴らみたいなのに会わないように」

 笑顔でアミを送り出し、地下鉄の出口へと歩き出した。

 

 僕はいじめとか、差別とか、弱くて卑怯なことは絶対にしてこなかった。小学生の頃はいじめられているクラスメートがいたら、必ずいじめっ子との間に入り、取っ組み合いになった。それはいじめの少ないうちの中学、高校に入ってからも変わらなかった。そういう風に育てられたし、僕自身がそうしたいと思っていた。そして、誰かに必要以上に頼ることもしてこなかった。


 でも、あの二人は間が悪かった。

 馬鹿だな、あいつら。けど、僕はもう頭を垂れてしまった。失った自尊心を取り戻すためには、やることは一つだ。

 一本の電話を入れる。幸いマツは近くにいた。すぐにバイクで僕を拾いに来てくれた。本当に守るべき自尊心ってなんだろう。僕はもう、考えることをやめていた。


 バイクに乗ってさっきの二人組を探すと、あっさり見つかった。僕とアミに絡んできた場所から、ほとんど動いていなかった。マツはバイクを停めると、すごい勢いで走っていく。ポケットから煙草とジッポーが落ちたが、お構いなしだった。遅れて、僕も走り出す。


「てめえら、誰に手ぇ出しとんじゃ!」

 おそろしい形相で、マツは怒鳴った。ヤンギャルの胸ぐらを掴んでいる。いや、本当は後ろ姿だから、どういう顔をしていたかはわからない。ごめん。

「えっ……。ちょ、ちょっと待ってください」

 ヤンギャルが情けない声を上げる。その声に、さっき僕に絡んできた時のような覇気はなかった。本能的にやばい相手だってわかっているんだろうな。ならまず、僕のことを「やばい」って思えよ!

 マツに追いついて横に控える僕を見て、ヤンギャルは困惑した表情を見せた。

「誰に手ぇ出した? って訊いとんじゃあ!」

 また怒鳴った。それは良いのだけれど、マツまで漫画みたいなことを言うのは残念でならない。まぁ今はどうでもいいか、そんなこと。

「出してないです! ホント手は出してないです!」

 必死に許しを請おうとするヤンギャル。おまえそれでもヤンギャルかよ。あとは、ヤンギャルの斜め後ろにいるチビが、怯えているのが怖い。だってこれ、逃げようとしてるよ?

「絡んどるのは事実だろうがぁ! なめとんなよクソガキ!」

 マツがヤンギャルを殴った。待てって、あーあ。

 僕は隣で震えているチビの方に目をやった。震えているだけではなく、先ほどのにやけ面も、ライオンに遭遇した小動物のようになっていた。たぶんこんな顔だろ、ライオンに会っちゃったら。

 ついに意を決したのか、ヤンギャルが反撃にでた。反撃とはいっても、マツの手を振りほどいて逃げようとしたくらい。マツはすかさず彼の後ろ手を掴み、一方的に殴り掛かった。それでもなんとか逃げようともがくものだから、マツは前傾姿勢になり、二人は揉み合いながら神社の周りの固そうな草の中に突っ込んでいった。

 再度チビの方を見ると、もたつきながらも自転車にまたがり、逃げようとしている。だめだ、おまえは逃がさないぞ。

 

チビがペダルを漕ごうとしたぐらいに、なんとか間に合って腕を掴んだ。

「おまえ何チャリ乗っとんの? 逃げんの?」

 どうだ、これで形勢逆転だろう。ちなみに僕もにやにやしてみた。

「え、いや……」

 どうしようかな。考えるまでもないか。僕は精神的に傷つけられた。おまえみたいなカスにさ。考えるまでもないか。殴ってみる? でも、どこを殴ろうか? やっぱ顔かな? 顔だよね!

父の「絶対に先に手を出すな。先に手を出した方が負けだ」という言葉が脳裏をよぎったが、今の僕には十七年間守ってきた約束は、もうどうでもよくなってしまっていた。


「……ごめ」

 とりあえず殴ってみる。後ろの方からマツの怒号が聞こえる。チビは何かを言おうとしていたが、遮ってしまった。いいだろ、別に。謝ろうとしただけだろう。知らねぇよ。

「ごめんなさい……」

 半泣きで許しを懇願してきた。なんでだよ、さっきまで調子にのってただろ? マツがいるから? そうだろうな、アイツの勢いに気圧されたんだろうな。情けないわ、こいつ。いや、僕がかな。どうでもいいや。興ざめしたけれど、僕はチビを自転車から引きずり下ろし、無理やり立たせて再度顔面を殴った。

 これでは、僕の方がいじめている側じゃないか。僕は小学校の頃からずっといじめっ子と闘ってきた。小学生、中学生の頃はまだみんな身体が出来上がっていないし、気力だけでも勝てた。でも、高校生になると違う。明確な体格差が出来て、小さい方は圧倒的に不利になる。けれど、何の問題もなかった。高校に上がると、いじめなんてほぼなかったし、何よりうちはおぼっちゃん学校だった。もちろん殴り合いのケンカが全く起きなかったわけではないが、みな他の遊びや勉強で忙しかった。だからうちの高校は、一割にも満たないヤンキーはドロップアウトしていくし、残った面々もヤンキーよりギャル男の道を選んだ。つまり何が言いたいかというと、僕は他人をいじめたことなんてないし、絶対にそんなことはしないと誓ってきた。なのに、それなのに、おまえみたいなチビで金魚の糞やっているやつのせいでさ、僕がいじめっ子側になっているのが許せないんだよ! というわけでおまえを殴りまくるよ、僕は。


 どれぐらいかわからないが、たぶん十数発ぐらいだろうか、チビの顔面を殴りまくった。鼻血を出していたけれど、おかまいなしだった。

「もうやめといたら?」

 ヤンギャルと揉み合っていたマツが戻ってきた。

ただ、それでも僕は帰ってこれた気がしなかった。

「ああ、うん」

 空しくなって手を下ろした。チビが座り込む。

 その後はチビに逃げたヤンギャルの学校と歳を訊き、解放してやった。気分が悪くなった僕は、マツと別れ帰路についた。まぁ、家のすぐ向かいの歩道で絡まれたんだけどさ。


そういえば、マツは小学生の頃よくいじめられてたっけ。それを僕は庇っていたんだよな。中学から別の学校になったけれど、すっかり立場が変わってしまったな。

 違うか、マツは僕に恩を感じているのかもしれない。そのマツを付き合わせて、僕はなにをやっているのだろう。ごめんな、マツ。


 家に帰ると母が夕食はどうするか訊いてきたが、今日はいい、とだけ言って二階の部屋に直行した。

 今日、僕がやってきたことを知ったら母はどんな反応をするだろうか。卑怯な人間を嫌い、人一倍正義感の強い父は、先に手を出した僕になんて言うだろうか。きっと、殴られるな。うちの父は滅多に怒らないし、子どもに暴力なんて決して振るわない。でも、人として絶対にやってはならないこと、を僕がした時には、拳が飛んでくる。とはいっても、たしか二回ぐらいしかそんなことは起こらなかったが。だけど、今日のことを知ったら殴られるだろうな。わかってるよ、卑怯者だってことくらいさ。でもさ、聞いてくれよ。僕だって去年までの三年間は、輝いてたろ?




※※※

 



 中学三年の時、先生からもらったチラシを見て、学外の自主活動のイベントに顔を出した。そこには、私学助成金運動に真剣に取り組む先輩たちがいた。彼らは議員たちを招待し、そこで演説をしたり、高校生(後で知ったが、中学生も大勢いた)の熱意、想い、力、輝きを様々な形で表現し、訴えかけていた。僕は本当のところ温厚な性格で、敵をつくったり、些細な争い事も嫌いなので、政治的な思想は持たないようにしている。けれども、僕のそんな考えを吹き飛ばしてしまうほど、そこにいる先輩たちは輝いていた。助成金問題の是非はともかくとして、あんな高校生になりたいと、強く思った。


 そこからの行動は早かった。チラシをくれた先生に話を訊きにいき、すぐにその集まりに参加することにした。鳴子踊りの「群舞」というのがその活動にはあって、議員に想いを伝える際や、地域のお祭りでよく披露されていた。まず僕は母校とその近隣校が集まった、名古屋中部ブロック(名中)で、群舞を教わることとなった。こんな風に、何かやってみたい、私も自主活動に参加したいと思った生徒が、すぐにでも参加できる装置としての役割も、群舞は果たしていると思う。

 この自主活動は、愛知県中の学校が参加しており、年に大きな合同学園祭のようなものを二回、他にも各地域ブロックごとにイベントを開催し、街頭での募金活動もあった。

この街頭募金がなかなかやりがいがあって、度々イレギュラーにも巻き込まれた。いちゃもんをつけてくるおっさんがいたり、それこそヤンキーが絡んできたりもした。その都度、こちらの活動内容や意義を説明したり、そもそも募金活動自体、声を出さなければならない。どうしたら街行く人が立ち止まり、僕たちの意見に共感し、募金に協力してもらえるか。訴えかける際にアドリブ力も鍛えられたし、その頃には気恥ずかしさも消えていた。どういう想いで、どうして募金活動という手段で、何を訴えかけたいのか、それらを突き詰めて考えるのは、苦しさを超えて充実した毎日を僕に与えてくれた。助成金についても、勉強嫌いな僕が勉強熱心になるぐらいに、没頭していた。

他にも、各学校の生徒会が集まり、様々な議題を持ち寄って会議をしたり、被災地支援にも行った。

特に僕は群舞と募金活動に熱を注ぎ、中部ブロックから本部に行くことになった。本部実行委員には三役というものがあり、高校一年の時には、組織局の局長と、群舞実行委員にも選ばれた。その後は副実行委員長兼、群舞担当にも抜擢され、何万人もの群舞隊を率い、何万人もの来場者の前でマイクを持って訴えをした。本当に充実した毎日だった。高校二年になるとラグビー部を辞め、生徒会長と、自主活動にひたすら打ち込んだ。

硬派に活動に取り組んできたつもりだが、この時期は実にモテていた。これは当たり前で、外部からイベントに遊びに来ている中高生からしたら、何か壇上で語ってる人がいる、何なんだろうあの人、頑張ってる人なんだね、となれば、語っているのが誰でも少しはモテるだろう。実行委員でほぼ毎日顔を合わせている面々は、いわずもがな。話は逸れてしまったが、ここで僕はアサコ、ソブエくん、ヤナセ、ナナコ、ダイキ、サトミ先輩、アンナ先輩、ヒデタカ先輩、アユミ、アキ、数え切れないほどの大切な仲間ができた。学校が終わってから、本部でみんなと一生懸命課題に取り組むことが、中学に進学してから打ち込むものがなかった僕には、最高の幸せと言っても過言ではなかった。


けれども、そんな充実した毎日も、三年目で陰りが見えた。心から信頼し、僕に教師になりたいと明確な夢を抱かせてくれた教師陣に、裏切られたのだ。

僕は全力で熱くなれるものを、そして居場所を、失くしてしまった。




※※※




「じゃあオカダは飛ばして、ハットリ」

西日が窓から零れ落ち、まっすぐ僕の後頭部に突き刺さってくる。ずっと机に突っ伏していたから、額が痛い。後ろの席のテツが指名され、英文を訳している。学校の机じゃよくある、浅い眠り。テツ、ごめんな。もう少しこのまま寝かせてくれ。


「お前さ、なんで寝ててもスルーされんの?」

授業が終わると、肩をゆすられ、僕はテツに起こされた。寝かせてくれよ、と思いつつも、気怠く顔を上げる。

「お、起きたか」

「うん。えっと、なんだっけ?」

「だからさ、なんでお前って寝ててもモリさんにスルーされんの? おれなんか先週、寝てたらキレられたよ。で、『スタンダップ』って言われてさ、立たされた。あれもう意味わかんねぇよ」

 たしかに。英語のモリ先生は、毎回ではないけれど、寝ている生徒がいたら起こす。起こした生徒を「スタンダップ」と言ってしばらく立たせるのだが、なぜか僕は起こされない。というか、始めの頃はきちんと起こされ、立たされもしたのだが、ある時から立たされなくなった。むしろ起こされもしない。

「なんでだろうなぁ」

「それを訊いてんの」

 少し、考えてみる。そういえば、うちの母さんは父母懇に入っていて、食事会なんかでもモリさんとよく話すって言ってたな。でも森さんがそれだけで、僕が寝ていても見て見ぬふりするかな。いや、しないでしょ。そんな甘い人じゃあない。じゃあ、なんで? 僕が生徒会長をやっていたからかな。いやいや、それでひいきする人でもないだろ。うーん、わからん。テツが納得するような答えは出せそうになかった。

「ごめん、考えたけどわかんなかったわ」

苦笑しながら答えると、案の定テツは不満そうな顔をしていた。

「お前、モリさんと仲いいからじゃね? …あとさ、お前、寝すぎ。最近、ずっと学校来ても寝てね? マサヤとか心配してたぞ。酷いときなんか、一限から放課後までぶっ通しじゃん。いくらうちでも、卒業危なくね?」

 モリさんの話はもういいのか、と思いつつも、訊かれたくないことを訊かれて動揺した。

「ああ、最近ね。ちょっと疲れててさ」

質問には答えず、テツには悪いが無理やり会話を終わらせた。僕はもう、将来の話はもちろん、イマの話もしたくなかった。もうやめてくれ。疲れた。



「昨日そんな面白いことあったのかよ」

マサヤが、俺もそこにいたかったわ、と笑いながら言った。ヤンギャルとチビに天誅した話。こんなみっともない話を興奮して聞いてくれるのは、マサヤくらい。いいやつだよな、マサヤ。

 うちの学校は中高一貫の男子校で、マサヤとは中二の時にクラスが同じになった。僕は小学生の頃から白髪があるのだが、母に白髪染めをしてもらう際に、染粉を間違えて金髪になったことがある。それが中二の始めで、マサヤは始めそのことで突っかかってきた。

 転機だったのは、その年のスキー合宿で、夜僕らの部屋にマサヤが来た。その時、饅頭のようなお菓子をもらって、当たり前なのだが「ありがとう」と言うと、マサヤが言った。

「おまえのありがとうって、本当にありがとうって感じするな」

「そうかな?」

「おう」

 よく意味が分からなかったが、悪い気はしなかった。というよりも、マサヤがそんなことを言うとは思わなかったので、内心驚いていた。

 それからは、お昼を一緒に食べたり、マサヤが僕の母のブティックやうちに遊びに来たりして、一気に仲が深まった。たまたまだが、僕の好きなゲームをマサヤがやっていたのも大きかったと思う。あと、マサヤはDVDが好きだったので、よく二人で映画を借りて観ていたな。「青い春リボルバー」、あれは、ちょっとつまんなかったよな。


 ただ、僕らが中三に上がって別のクラスになると、マサヤはいじめられていた。とはいっても、甘ったれのおぼっちゃん校だからか、暴力はなかった。その代り、陰湿ないじめがあったようで、マサヤは休み時間になるとすぐに僕のクラスへ来た。驚くべきことは、マサヤは体格が良い。兄もマサヤも、180センチは超えている。だから始めは信じられなかったし、もっと驚いたのは、いじめている連中は僕も仲がいいやつらだった。そのことを知ってすぐに、なぜこんなことをするのか、みっともないしやめろよ、といじめている側の何人かに直接言ったことがあるが、効果はなかった。だから気晴らしにでもと、自主活動に誘って、学外でも一緒にいることが多くなった。

 マサヤにはつらい一年になったと思うが、高等部に上がると、自然といじめは終わった。クラスもまた同じになり、高一の終わりまでマサヤは自主活動を続けていたので、中学の時よりもさらに一緒にいる時間が増えた。マサヤが高一の終わりに自主活動を辞め、僕は高二の秋ごろに辞めたのだが、彼は僕の負った傷について知っている。

 だからなんだろうな、僕があんなに夢中になっていた活動を急に辞め、一日中学校では寝ているから。だから、

「おまえ、今日帰り暇なん?」

なんて訊いてくる。きっと何か気分転換になれば、という思いで誘ってくれているのだと思った。

「うん、暇だよ」

「じゃあ栄行こうぜ。まず飯食ってカラオケな」

こんな具合に、高三の受験期にも関わらず、僕とマサヤはほぼ毎日栄なんかで遊びほうけている。



「おい、次さ、キンキ一緒に歌わね?」

「あれでしょ? 『僕の背中には羽がある』やろ?」

 学校が終わると、僕らは栄のカラオケ「ユースタイル」に来た。ユースタユースタってみんな呼ぶのだけれど、ユースタに来ると毎回誰かしら顔見知りに会う。名古屋って狭いなと思いつつも、一番栄えている街で、きれいでアイス食べ放題、ジュース飲み放題の店なら、そりゃみんなここに来るよな。

 マサヤのケータイが鳴り、電話をし始めた。僕の方をみて苦い顔をしているから、電話の相手が誰なのかはすぐにわかった。

「すまん、ナオキ来るわ」

 だと思った。僕はナオキのことがあまり好きではない。僕らの学校は私服だった。僕もあまり人のことは言えないが、ナオキはいつも派手な格好で、その服やアクセサリーの出所が気に入らなかった。

 ナオキは、ブティックなどで万引きを繰り返している。窃盗と言った方がしっくりくるな。一度に十数万相当の量を盗むこともままあった。それで何度も捕まったし、巻き込まれるのは嫌だということで、仲間も徐々にいなくなった。僕も今でこそこうだが、本来は不正を嫌う人間だ。そのつもり。だから、やはりナオキのことは好きになれなかった。


「よう」

 勢いよく扉をバーンっと蹴とばして、ナオキが入ってきた。おまえ、そんな武闘派じゃないじゃん。

「おう」

 マサヤが簡単に挨拶のようなものを返し、迎え入れた。相変わらずジャラジャラ胸や腕にアクセつけてんな、と思いつつも「ナオキじゃーん」と適当に返しておいた。


 しばらく三人で歌っていると、ナオキが言った。

「なぁ、パルコ行かん?」

 おまえさ、それで何人巻き込んだんだよ。いつそれ卒業すんだよ。ってか後から来てなんだよ。あーうぜぇ。帰れ帰れ。

「俺はやめとくわ」

 マサヤが笑いながら返した。この二人は仲が良い。というか良かった。でもナオキがこんな具合だから、今ではマサヤすらも厄介者扱いをしている。

「えー、マサヤ兄やん冷たいなあ」

 なにがそんなに可笑しいのかわからないぐらい、ナオキは笑いながら答えていた。こいつクスリもやってるんじゃないかな。知らんけど。しかし、何度捕まっても一向にやめる気配はないし、盗みは病気だなと思う。こいつを見ていると。

「わかったわかった。じゃあ俺は独り寂しく行ってきますよ」

 そう言って少しした後、ナオキはカラオケを出ていった。

「悪かったな」

 とマサヤは言うが、僕は気にしてはいない。それよりも、マサヤはガタイもよくて顔も濃いのに、案外断れないタイプだよな、なんて考えていた。


「オカッチー」

 栄のオアシスで、他校の友人のトオル、ノブ、トヨ、ヒロアキと合流した。

 四人とも元は同じ学校で、ヒロアキだけ留学を経た後に、僕の学校の姉妹校に転入した。トオルとヒロアキはかなりの美形で、特にトオルは少女漫画とかに出てきそうな優男。ヒロアキはトオルよりはほんのり濃いめで、僕とは服の好みが合ってよく一緒に買い物に行く。今日はヒョウ柄のライダースを着てきた。ノブは天然パーマで無口。何を考えているのか全くわからないんだけれど、案外マイペースなところがあって憎めない。トヨはこの中だと一番ガタイがよくて、なぜか僕のことを過保護にかわいがってくれている。

「オカッチ、どこ行くよ」

 オアシスのベンチに腰掛けながら、トヨが訊いてきた。

「どこでもいいよ。ああ、でもそろそろご飯食べたいかな」

「赤から行こうよ、みんなで鍋」

 トオルがのってきて、僕たちは鍋屋に行くことにした。


「ノブ、アカリちゃんと最近どうなん?」

 マサヤが訊ねると、ノブはビクっとして顔を上げた。なんでビクっとするの、ノブ。

「アカリ? めんどい」

 とだけ答えて、鍋をつつき出した。

「めんどいって、おまえ酷いなあ。アカリ、おまえのことめっちゃ好きやんか」

 トヨが入ってきたが、ノブはおかまいなしに鍋を食べている。やっぱ変わってるよな、こいつ。トオルは「でたー! めんどい」とか言いながら、爆笑していた。相変わらずお調子者だなあと思いつつ、ヒロアキの方に目をやると、彼もにやにやしていた。

「ノブ、ヤレればそれでいいもんね。ね、ノブ」

 とヒロアキがからかうが、ノブの方も「そうだよ」と言って笑っていた。こいつらクズだなと思ったが、今は僕も似たようなものだった。

「付き合ってるなら大事にしてやれよ」

 トヨの発言に、マサヤは同意しているような表情を見せた。この二人は、まだまともだ。男気があるよね。

「でもトオル、セイラちゃんと漫喫でヤッてたよ」

 ノブがいきなりトオルに振った。私立のやつって、それぞれの高校の色みたいなものがあると思う。この「でも~~~だよ」というフレーズに、全く関係ない話を入れてキラーパスをするのが、彼らの学校のノリらしい。面白いけど。

「は? おまえ一々言うなって!」

 強い語気で返していたが、話題を振られてトオルもまんざらではなさそうだった。

「え、セイラちゃんってあのかわいい子? マジ? トオル?」

 まさやも驚いたようだった。驚いたというより、疑っていたのかもしれない。だってトオルは道行く女子高生が振り返るほどの、圧倒的なイケメンだけど、ヘタレだもん。僕も本当にセイラって子とトオルがヤッたのか気になった。

「え、ほんとにヤッたの?」

訊ねるとトオルは、少しぎこちなく笑いながら「さあ?」とだけ言った。僕とマサヤは目を合わせ、ああ、ヤッてはいないんだなと確信した。トヨはというとトオルの話には興味がなさそうで、鍋を管理していた。時折「はいオカッチ」とよそってくれたりもした。悪くいうとなよっているトオルと、見た目も中身も割と硬派なトヨでは、話があまりかみ合わないのかもしれない。こんな風に、みんなの会話を静観して鍋を食べている場合じゃなかった。

「でもさ、オカッチもこないだ、カホちゃんとカラオケでヤッてたよね」

 トヨも結構なクソ野郎だった。

「ごほっ!」

 いきなりのスルーパスに、噴き出してしまった。ちがうよ、去年の秋までは、あの頑張っていた頃までは、僕だって硬派だったんだ。それは同じ自主活動にいたマサヤとトオルは知ってる。だからさ、フォローしてくれよ。

「は? トヨ何言ってんの? してないよ」

 努めて笑顔で答える。カラオケボックスで、しかもあのクソ女相手に、腰を振っていたなんてあまり認めたくない。

「え! オカッチ、マジ? カホちゃんと? ユースタで?」

 トオルがにやつきながらもすごい勢いで食いついてきた。セイラちゃんの話はどうしたんだよ。

「いやいやいや! え、ってかトヨ、何もなかったけどさ、部屋の覗き窓にアイツの制服かけといたんだけど。だから見えてないっしょ」

 と疑問に思ったことを訊くと

「ふつうに見えたよ。で、あっ、って思ったからスルーして部屋戻ったんじゃん。カホちゃんも俺らについてきてたから、あの時には言わなかっただけ」

 ああ、これ見られたな。僕は猫が嫌いだが、猫のように自分の性生活は隠す癖がある。だって、本来僕は軽い潔癖症で、そういう生々しいことは好きじゃないから。

「え、なんで? オカッチ、マオちゃんと付き合ってたじゃん」

 マオの親友と付き合っていたトオルが追撃をかけてくる。

「あ、それ言ってなかったけど、マオ別れたよ。フラれた。でも別にカホも付き合ってないよ」

「は? マオちゃん別れたの? なんで?」

 驚いた様子のトオルを見て、話を逸らせたと思った。

「でもマオちゃんと付き合ってる頃にカホちゃんとも付き合い始めたよね?」

 そんなことはなかった。トヨ、余計なこと言うなよ。

「うわー、オカッチ二股じゃん! だめだよそれは!」

 満面の笑みでからかってくるが、軟派なヒロアキにも言われたくなかった。

「違うよ、カホはさ、どーでもいいし、向こうもそう思ってるよ、きっと。でもマオは別にふつうに付き合ってたって」

「なんで、カホちゃんええ子やん」

 トヨがカホ側についたのは理由がある。理由というか、単に僕がカホと会うのは栄だし、他のみんなと会うのも結局栄。だからカホと遊んでる時にトヨやノブたちと遭遇し、そのまま一緒にぶらぶらするなんてのは、よくある話なのだ。

「トヨくんどこ見てんの? アイツはホント性悪だよ」

「あんまそういうふうには見えんけどなあ。まあでもさ、オカッチ、カラオケでヤるのはウケるわ」

 場所のことを言われると、途端に恥ずかしくなる。違うんだよ、あの日は二人だったのに、たまたまVIPルームしか空いてなくて、それで広かったからさ。と思ったことをそのまま説明したが、あまり理解は得られなかった。

「出した後、処理どうしてんの?」

「ああ、それはね……」



 外はすっかり日が落ち、真っ暗だった。こんな時間まで遊んでいたのかと実感させられる。これだけ暗くなっても、街はカラオケや居酒屋、クラブなどの光できらきらしている。濁った空気を、無理やりライトでごまかしているようにもみえた。こんな街だったかな。店のライトや装飾で気づかなかったけれど、実際には汚い街なんだなと、この時の僕は思った。

「じゃあ、俺ら反対のホームだから」

 ヒロアキたちはみな逆方向で、独りで帰路についた。


 栄から地下鉄一本で、最寄り駅につく。階段を上がり外に出ると、路上バンドがけたたましい音を立て、ライブをしていた。いつもの光景なのだけれど、今日のバンドははずれだな。裏手に出ると「聴き屋」と書かれた小さな看板を立てて、座り込んでいるおじさんがいた。ニット帽を被っていて、歳はよくわからない。でも、笑顔で道行く人を眺めるおじさんからは、なんとなく良い人そうな雰囲気が出ていた。


 駅の向かいにあるコンビニに入り、レジで煙草を頼む。ずっとマルメラだったが、匂いがキツすぎて今の銘柄に変えた。メンソールならこっちの会社の方がおいしい。その会社の、青いボックスの新製品を買って、吸いながら家まで歩いた。



 家に着くと、母さんが「ご飯どうするのー?」と声をかけてきたが「食べてきた」とだけ答えて、二階の自室に直行した。

 煙草を一本だけふかして、ベッドに倒れこむ。横になって襟足を触ると、手櫛が通らなかった。ずいぶん傷んだんだな。それに伸びた。鬢の毛は鎖骨につきそうな長さになったし、襟足は胸まで届きそう。視線の先にある、大きな姿見を見ながら思った。姿見は下部に背の低い収納棚を置くことで固定されていて、上には本が置いてある。小さいころは、よく『ズッコケ三人組』を読んでいたな。今は漫画ばかりが並んでいて、文学作品はどこかにしまった。もっと本を読んでおけば良かったかなとも思ったが、その考えはすぐに消えた。だって、文学ばっか読んでるやつって暗いじゃん。僕はいいよ。今その日その日を楽しく過ごせればいい。そういえば小学生の頃に、くだらないミステリー小説を書いたことがあったっけ。ケーキを食べた人が毒殺されるんだけど、犯人はケーキを振る舞った家主。家主は、包丁の片側にだけ毒を塗っておいて、被害者を殺したんだ。あったなあ、そんなのを書いたことが。恥ずかしくてしまっておいたはずなのに、いつの間にか父さんに見られていて、「おまえ、面白いの書くな」と言われて余計に恥ずかしくなったのを覚えている。

でも本当は、月並みな言葉だけれど、うれしかった。自分の作ったものを褒められたのが、とても。運動会のリレーで、特訓の成果一位になったこともあった。思い返すと、僕は努力することが好きだったんだな。今は、そうだな。どうでもいい。ってか、何を頑張れば良いんだろう。高三から部活に入るのは変だし、生徒会もうちは二年がやる。じゃあ、勉強? 行きたい大学なんてないのに、頑張れるわけないだろ。


自分の好きなことに打ち込んだり、壁を乗り越えようと頑張った時、人には居場所が生まれるんだと思う。がむしゃらになって何かにぶつかった先とか、苦しことに立ち向かった後とか。そこには達成感とか目に見える成果だけじゃなくて、その人の居場所さえもできてしまうんじゃないかな。子どもなりの大義を以って自主活動に打ち込んだ。振り返って見ると、そこにはたくさんの仲間がいた。強い絆で結ばれた、かけがえのないもの。いつでも、みんながみんなを待っている、誰一人欠けても成り立たない、たった一つの居場所だった。




「明日、海に焼き行かん?」

唐突にマサヤが提案してきた。

「俺、今日帰りに日サロ行くんだけど」

「あそこ? トオルの親父さんも行ってる」

「そうそう。キミトにチャリで乗せてってもらうんだわ」

「じゃあ今日は日サロで焼いて、明日は海で焼けばいいじゃん」

 むちゃくちゃいうなと思ったが、焼きたかった僕はのってしまった。どうやらナオキも来るらしい。まあ海なら、盗むものもないしいいか。

「わかったよ。でも海ってことは、授業全部サボるってこと?」

「そう。俺は出席日数数えたけど、まだ大丈夫だった」

 生徒手帳を見る。各教科何日以上休むとアウトってのがあって、休んだ回数を教科ごとにメモしてある。明日の授業は、まだなんとか大丈夫そうだ。

「あ、俺もいけるわ」

「内海な、寝坊すんなよ」

「えっ、新舞湖じゃないの?」

「ナオキが綺麗な海の方が良いんだってさ」

 内海は、結構遠い。それに新舞湖の方が、女の子もたくさんいるのに。と思ったが、平日に学校をサボっていくんだから、女子高生なんているはずがなかった。

 だからといって、わざわざ遠い方に行く意味もわからないけど。どうせ海入んないじゃん。ああ、でも最初に海水に浸かってからのが焼けるんだっけな。



「悪いなー、キミト。わざわざ二ケツさしちゃって」

「いいですよ。帰り道の途中なんで、余裕っす」

 キミトは一学年下の後輩で、田中聖をもうすこし柔らかくしたようなイケメンだった。ただ残念なことに、キミトは僕よりも一センチ背が低い。

「大丈夫? ペダルに足届く?」

「先輩、一センチしか変わらないじゃないですか!」

 こうやってからかうのが面白かった。ちなみに、うちの母さんはイケメンのキミトがお気に入りだった。といっても、僕の友達とは大体仲がいいのだけれど。

 こうして二人乗りをしていると、よく本部までヤナセと自転車に乗ったのを思い出す。いつも僕が後ろに乗って、自主活動の本部がある金山まで、ヤナセが送ってくれた。そういえば、あいつは今どうしているんだろう。隣のクラスだが、僕は学校はサボるか寝ているし、ヤナセがどうしているかなんて知りもしない。そうだ、テツが言ってたな。オカダ、ヤナセと何かあったの。って。

 ヤナセは、心の深いところで会話ができた友人だった。同じAB型なのもシンパシーを感じた。僕が自主活に誘ったから、始めは同じ局で頑張っていた。ヤナセは、もう自主活辞めたのかな。僕が急に辞めた時、どう思ったんだろう。

どうでもいいか。


キミトが自転車を停め、日焼けサロンの前で降ろしてくれた。

「ありがとね。今度ヒデヤも誘ってうち泊まりにこいよ」

「いいんですか? じゃあ、ヒデヤ誘っときますからね!」

 おう、と言ってキミトを見送った。

 今は今で、友達に恵まれていないなんてことはない。自主活の頃からの友達だって、少なからずいる。


それでも、この所在ない感じはなんなのだろう。


家族だって、僕は嫌だと思ったことはない。塾に入れられた時は嫌だって思ったけど、そういうんじゃなくて、この親で嫌だ、と思ったことはない。

じゃあ、なんで。贅沢な言い方だけど、家族が一つの居場所なのは当たり前というか、家族だけじゃ生きていけないんだと思う。極端な話、引き籠っていたら、外と何のつながりももてないわけだし。だからみんな、部活とか習い事とか、それこそクラスだっていい。何か、家族以外の外部にも、居場所があるはずだ。

考えるのに疲れた僕は、トオルの父親も通っているらしい、日サロのドアを開けた。




誰も寝坊することなく、海に着いた。まぁ、学校に行ってるふりをするわけだから、寝坊なんてしないはずなんだけど。

さっきコンビニで買った日焼けオイルを塗る。これはココナッツの香りがキツくて、最初は嫌だった。でも慣れって怖いもので、もうこのヤンキー特有のココナッツ臭も悪くないと思い始めた。始めにこれを塗ってから海水に浸かる。その後またこいつを塗って寝そべれば、こんがり日焼けできるってわけ。

「それ、いい?」

 あれだけ日焼けしたいと言っていたマサヤがオイルを忘れたので、貸してあげた。塗り終わるのを待って、一緒に海に向かって走って行った。

 ナオキはというと、もうすでに海に入っていて、僕らを呼んでいる。

「おまえら早くしろよー!」

 秋口だから、やっぱり海水は冷たい。すぐに肩まで入るのは心臓に悪いと聞いたことがあるが、すこしずつ入ると寒いので、僕は一気に身体を沈ませた。

「これ寒すぎだろ」

 マサヤの方は、大きなからだをぶるぶると震わせながら、少しずつ浸かっている。意外に小心者なんだよな、マサヤ。


 学校をサボるのはよくあることだけど、さすがにここまで遠出するのは初めてだった。案の定、僕ら三人以外はほとんど誰もいない浜辺で、横になって身体を焼く。ナオキはデニムを履いて上裸の格好で焼いている。それ、かっこいいな。真似しようかと思ったが、ナオキの真似をするのはシャクなので、やめておいた。

 いつもはサボった時は栄に行き、ゲームセンターやカラオケ、飯屋をふらついていたけれど、人のいない海ではいつもとは異なる違和感があった。ここから見える波は穏やかで、街のようにがやがやした騒音もない。


 時間が、止まっている気がした。

 

静止画とまでは言わないが、寄せては返す波の揺れも、同じ景色を眺めているようだった。同じような波の音、変化を感じられない眺望。何もかもが、止まってしまっているようだった。居心地の悪さを感じたが、既視感めいた感覚もあった。


 何も変化がないわりに、太陽だけは昇り降りをする。心の時間は止まっているのに、現実の時間は進み続けるような、そんなむなしさを感じた。

 ここにはもういたくない。けれども僕には、波を動かす良い方法が、全く浮かんでこなかった。




「よく焼けたわー」

 帰りの電車、ナオキはご満悦だった。

「おまえ、焼けるの早かったな」

 あまり焼けなかったマサヤだが、海に行けて楽しかったんだろうな。

「じゃあ、またな」

 マサヤとナオキに別れを告げて、電車を乗り換える。最寄り駅についても、僕はどこに帰ればいいのか、一瞬わからなかった。




 英語の授業中、いつものように寝ているとケータイが鳴った。正確には、鳴ったんじゃなくてバイブが振動しただけなんだけど。

「ユウくん、今日帰りユウくんち寄っていい?」

 差出人はアヤからで、変な絵文字が付いていた。なんだこれ。アイツ、これがかわいいと思ってるのかな。だとしたらセンスを疑う。

 適当に、いいよ、とだけ返して、僕はまた机に突っ伏した。


 呼び鈴が鳴ったので、アヤが来たなと思い、扉を開けにいく。

「きたよ!」

 元気よく入ってきたアヤに辟易しつつも、二階へ上がった。


 アヤとは、去年自主活を辞めてから知り合った。マサヤと、ツチヤという友人とで、栄のクリスタル広場でナンパをしたことがある。その日の最後に声をかけたのが、アヤとアサミだった。僕のアドレス帳は、やたらア行ばかり溜まっていく。

 始めに僕があの二人組は? とマサヤたちに提案すると、ツチヤはかわいい! かわいい! と乗り気だった。マサヤの方は、これはいまだによくわからないんだけど、「かわいくねーじゃん。あんなの声かけたくねぇよ」と、ひどく難色を示していた。今考えると、当時のアヤは結構暗くて、陰のある女だった。顔や化粧こそ前から変わっていないが、オーラみたいなものがマサヤは嫌だったのかなと思う。

 今ではマサヤは、去年何でそんな印象を受けたの? というくらい、アヤはかわいい、面が良いとよく褒めている。

 二人に声をかけたのは僕だった。ツチヤも隣にいたが、僕の言ったことをそのまま真似していた気がする。アサミの方は声をかけられてまんざらでもなさそうだったのに対して、アヤの方はあまり喋らなかった。今ならわかるけど、去年のアヤは人とコミュニケーションをとるのが苦手で、塞ぎ込んでいただけだろう。ただ、アサミの方のノリがよかったので、彼女に話題を振りまくってごり押しで連絡先を訊いた。


 情欲に対して無力な十代である僕は、後日すぐにアサミを抱いた。これは仕方がない。性欲のピークを十代に設定した誰かが悪い。

 平行してアヤともメールをしていた。アヤはいつも「うん」とか「そっか」とかそっけないメールだったので、脈ないな、と思い数日後にメールを止めた。

 だが、メールを止めたら止めたで、向こうからメールがきたので、ああ、そういうタイプか、と理解し、直接会って遊ぶようになった。直に会っていてもアヤの口数は少なく、返事をするだけ、というぐらい、レス・コミュニケーションだったが、その方が却って楽な時もあった。


 アヤと二人っきりでいるのはきつくない、といえば嘘になる。けれど、裏を返せばお互い黙っていても気まずくならないし、その後もいろいろなことがあった。アイツの話ばかりするのはシャクなので割愛するが、それからはマサヤをはじめ、僕の友人たちと一緒に遊ぶようになってから、アヤは本音を言えるようになってきた。


「あの漫画どこ? 早く続き読みたいんだけど」

暗く陰があって黙りっぱなしよりは良いのだろうけど、今のアヤはやかまし過ぎる気もする。

「そこの鏡の前に置いてあんじゃん」

「ないよ!」

「あるだろここに! よく見ろって」

「あ、ほんとだね。ありがとう!」

 本当にうるせぇ女だな。一年前より、身なりも派手になってるし。おまえさ、塞ぎ込むほど暗いよりは明るい方がいいけどさ、もうちょっとつつしみみたいなものは残せなかったんかね。


「うわあ!」

 肘を立てて横になっていると、目の前のアヤが絶叫した。アヤは少し間を空けて、寝ながら漫画を読んでいたため鼓膜は無事だが、ついびくっとしてしまった。

「なんだよ」

「いや、これ怖くない? 超びっくりしたんだけど」

 と言って、漫画の一ページを見せてきた。そこにはその漫画のマスコットキャラクターである死神が描かれていたが、そんなところで大声出してたらキリがないぞ。ってか、作者もそんな驚く読者がいるなんて、絶対に考えてない。

 前から天然だよなと感じていたが、挙動までズレてるとは、今日になって初めて気がついた。

「おまえうるさいしそれ持ってけばいいじゃん」

「こんな怖いの一人で読めないよ!」

 ああ、だから毎回うちまで読みに来てるのか。




 マサヤは僕の傷を知っていると言ったけれど、それは一緒に自主活をしていたからで、あとは他にも参加していたトオルぐらいしかそのことは知らない。ノブとかトヨとかヒロアキは、何かあったんだなって察してくれているみたいだけれど、もっと訊いてほしかった。マサヤみたいに、何でも話せる友人がほしい。いや、以前は何人かいたはずだ。だけどそれも、いつの間にか崩れてなくなってしまった。

自主活をしていた頃、アサコは女だったけど、親友であり、おおげさにいうと、同志だったなと、今になって思う。




※※※

 

 アサコは本当に良いやつだった。初めて僕が自主活で組織局長という役職をもらい、そこの局員として来たのが彼女だった。

 最初はぶりっ子か、おかしいやつだと思っていた。やたら慣れ慣れしいし、女子校の出身のクセにボディタッチが多い。だから「俺は騙されねぇぞ」と思って少し距離を置いて接していた。


 けれども、僕が組織局を回そうとすると、何度も壁にぶち当たった。どうしてうまくいかないのか、一晩中悩んだ日もあった。

そんな時、いつも隣で支え続けてくれたのが、アサコだった。


 いきなり人に「オカッチ」なんてあだ名をつけてきたり、自由奔放に振る舞うアサコが苦手だった。それなのに、ずっと傍にいて、俺が苦しい時には話を聴いてくれるだけじゃなく、自分の言葉で励ましてくれた。詩の本とか、有名人の格言とかじゃなくて、アサコの目線で紡いだ言葉を送ってくれた。

自分でも気がつかないうちに、アサコに惹かれていたんだと思う。


 でも、結局僕らが付き合ったりとか、そういうのはなかった。ただなかっただけなら、男女の間に友情はあるんだね! で終わったのだが、実はすれ違いで、付き合うことはなかっただけだ。あの時キシモトを選んで、二週間でフッた自分を殴ってやりたい。最初から、こいつを選んでおけばよかった、そうしたら今頃何してたんだろなってことは、これから十年近く経っても考えることがある。


 女々しいやつだと笑ってくれていい。でも、それだけアサコの存在は強烈だった。十年後も残るくらいだから、そりゃこの時の俺にとっては相当だよな。



 ある日自暴自棄になって、ただそれだけじゃなくて許せないこともあったんだけれど、自主活を何人かで荒らしに行ったことがあった。

思い返すと結構ひどいことをして、何人か泣かせたりもした。

それで気持ちよくなれると思ってたんだけど、胸の中の怒りとか、虚しさとか、そういうものは一切消えなかった。むしろ、後ろ暗さを僕の心に増やしただけだ。

 会場がどよめいて、僕らも走り回っている時に、不意に誰かに腕を掴まれた。


 腕の先を見ると、見覚えのある顔がそこにあった。涙ぐむアサコだった。


「もうやめようよ……オカッチ」


 なんだおまえ。おまえもどうせ壇上の、嘘っぱちしか言わねぇ教師たちと同じだろ。あいつら俺が張り倒してやるよ。そしたらさ、もうこんな宗教じみた活動辞めようぜ。おまえも俺らと一緒に来いよ。おまえに惚れてたトオルがいるのは少し気まずいかもしれないけどさ、絶対こっちのが楽しいぜ。毎日栄行ってさ、カラオケだろ、Jカフェなんておしゃれな店も見つけたんだぜ。あとはそうだな、卒業したら学生イベントの日以外もクラブに行けるしさ。それにオアシス。昔おまえと散歩したよな。付き合ってもいないのに二人で待ち合わせしてさ。あの時、栄の地下街で俺の好きなナナムジカのCD! あれ見つけてくれたよな。今度はおまえの好きなレンジのCDでも探そうぜ。「祭男爵」を群舞の曲に俺が推したこともあったよな。最後は吉田兄弟の曲と迷ってさ。俺とお前だけだったな、レンジの方推してたの。でも吉田兄弟の「Rising」、あれで群舞創れたの良かったわ。選曲から振り付けまで俺らがやったんだよな。京都の立命館高校にまで俺らで振り付け教えに行ってさ。あん時旅館だったじゃん。照れくさいんだけどさ、先生がいたとはいえ、生徒は俺らだけだったから、なんか、うまく言えねーんだけど、少しどきどきしたよ。なんで俺ら付き合ってないんだろうってさ、まぁあれは、俺が告ってフラれて、その後おまえが告ってきたんだけど、期間空いたし、俺も意地になっててさ、フッたんだわ。んで、「悪いけど俺これからキシモトに告りに行くからさ」って言ってふざけてお辞儀したら、おまえ殴ったよな。あれは笑ったわ。ビンタされるのなんて久しぶりだったしな。あれ、違うわ。俺はあそこにいる教師たちが憎くて、その隣に並んでる高校生たちを許せなくて、それで、えっと。だから、おまえのことが好きで。




「うるっせぇんだよ!」




 僕はそう怒鳴って、アサコの手を振りほどいた。




 ※※※




「ユウくーん。そろそろわたし帰りたいんだけどー」

 すっきりしなかった。何がかはわからないけれど、アヤに揺すられて僕は上半身を起こす。


「今、何時?」

「もう八時だよ、バスなくなっちゃう」

 ずいぶん長いこと寝てしまったと思ったのだが、実際には一時間半くらいだった。気怠い身体をなんとか起こして、家の前のバス停までアヤを送っていく。

「おまえさ、やっぱ漫画持ってけよ」

「え、やだよ」

「なんでだよ。毎回うち来る方がめんどくね?」

「やだ、あれ一人で読むのも怖いし、いや」

 会話にどこか違和感があったが、バスが来たので切り上げた。

 乗車して座席に就いてからも、手を振るアイツをいじらしく思った。



 始まりはマサヤの「おまえんち泊まっていい?」からだった。

 別にマサヤが泊まっていくのは珍しいことではないんだけど、トオルやノブも来ることになった。それに加えて、トオルと僕が自主活の頃に出会ったヨシナオに、僕やマサヤと同じ学校のアキヒロまで来ることが決まった。

僕の部屋に六人も入るか不安だったけれど、男しかいないならいいかと妙に納得した。


当日、アキヒロが「花火しようぜ」なんて言うから、車道の駅の方までぞろぞろ歩いて、脇にある小さな公園に入った。

「オカダんち来るのも久しぶりだな」

「最近ヨシナオ、柄にもなく受験勉強してんじゃん。だから誘いにくかったんだよ」

 ヨシナオと二人でベンチに腰掛け、煙草に火を点けた。

「オカダまだそれ吸っとんの?」

 ヨシナオが笑いながらつっこんでくる。なんでだよ、別に何もおかしくないだろ。

「俺があんまメンソ吸わんの抜きにしてもさ、それ、歯磨き粉みたいな味するじゃん」

「はあ? しないよ、別に」

 心外だった。メンソール煙草を吸わない人からしたら、メンソールの味の区別なんかつくか? それに、僕がおいしいって言ってたら、トオルも一時期吸ってたじゃん。

「トオルは飽きたってさ」

 あいつ飽きっぽいからなあと思いつつ、アヤも吸っているのを思い出した。それを話すと「マジ?」と言ってきたので、マジマジ、と返しておいた。


「じゃあ火つけるぞー」

 とトオルが言い、アキヒロが持っているロケット花火に火を点けた。

 何発が発射してみんなは楽しんでいたが、火が苦手な僕は後ろでただ眺めているだけだった。


 『それ』は突然やってきた。


「やかましいんじゃゴラア!」

 キィーンっと、鋭い音と共にそいつはやってきた。

 夜の公園の、どこから出てきたのかは定かじゃないが、青いつなぎを着て、警棒のようなものを手に持ってそいつは向かってきた。

 青いけど、警察じゃあない。それに、やつを何より不審者だと思わせたのは、髪型だった。

 今時の日本で、弁髪はないだろう。ラーメンマンかよ、おまえ。


「おいクソガキども!」

 また鋭い音がした。耳が痛くなるその音は、ラーメンマンが持っている鉄の棒で、街灯を殴る音だった。

 やばい、さすがに鈍器は殺される。

 僕がそう思った瞬間には「逃げろ!」と言ってトオルとヨシナオが走り出していた。

一瞬遅れてマサヤ、ノブが走って、アキヒロはなぜか一人だけ別の方向に逃げていった。

 運動神経も反射神経も悪い僕は、マサヤたちからさらに一呼吸遅れて走り出した。

 背中を見せたくなかったが、振り返る直前にラーメンマンが動き出したのが見えた。ただのおっさんなら何も怖くないけど、凶器と、なにより日本であの髪型はやっぱり無理だ。全力で走った。


 公園を出て角を曲がると民家の駐車場があったので、僕はそこに隠れることにした。マサヤは

「バカ!」

 と言いながらトオルたちとうちの方に走っていったが、いつでも助けを呼べる分、こっちのが安全だろ、と動揺してる頭で考えた。むしろ、アキヒロは大丈夫なのか?


 少し時間を置いて、そっと駐車場から顔を出す。どうやら僕の方には来ていないらしい。

 それでも急いで、うちの方へと走った。


 家の近くでみんなと合流したが、問題があった。

 アキヒロがいないのだ。さらに悪いことに、あいつはケータイを置いて出てきている。誰も連絡がとれなかった。

「あいつ、食われちまったかもな」

 マサヤが冗談か本気かわからないトーンで言い、申し訳ないが僕は少し笑ってしまった。

 うちに上がって話を整理すると、ヨシナオが彼女からもらったジッポーを、逃げる際に落としてしまったらしい。

「なんか落ちたと思ったんだよな。一瞬迷ったんだけど、逃げちまったわ……」

 ヨシナオは、僕らからするといじりがいのあるやつなんだけど、さすがに同情した。なんとか見つけられないかを話していると、玄関のドアが開く音がした。



「おまえらひどいわ、俺置いてくなんて」

 心配して損したと思わせるぐらいに、憎まれ口をたたきながらアキヒロが遅れて帰ってきた。


「いやいや、おまえが意味わかんねー方向に逃げるからだろ」

「あっちに行けばコンビニあるだろ。普通そっちに逃げねぇよ」

 マサヤとアキヒロが話しているとき、ふと気になった。

「アキヒロ、スカジャン着てなかったっけ?」

「そうそう! あれ花火の時脱いでてさ、公園に置いてきちまったんだわ。取りに行きたいから誰かついてきてくれよ」

 こいつ、本当に面倒だな。 



 全員無事に帰れたが、ヨシナオのジッポーをどうするか、みんなで話し合った。

「じゃあ、間違いなく逃げる時に落としたん?」

「うん。間違いない」

 トオルがヨシナオに訊ね、横でノブも聴いていた。

 マサヤと僕はどうするか話し合ったが、諦めるか明日の朝見にいくのが得策だと結論づいた。

「でも、ヨシナオかわいそうじゃん」

「たしかに」

 たいして、たしかに、と思ってなさそうなノブが、トオルに同意している。

「俺、探しに行ってくるわ」

 ヨシナオが一人で行こうとするので、さすがに止めた。

「じゃあ、時間空けてみんなで探しに行こう」

「わかった」

「俺のスカジャンもな」

 僕の提案は同意が得られ、一時間後にさっきの公園へ行くことになった。




「あるといいね、ジッポー」

「落とした場所覚えてるなら、見つかるだろ」

「俺のスカジャンもな」

 こいつうるせえな。でも、アキヒロのスカジャンもインディーズで六万らしいしな。ついでに探してやるか。

「わーかったわ、うるせえ!」

 マサヤが、アキヒロに肩パンをしていた。




 時間になり、公園に向かう。道中で作戦会議を開いたが、とにかくあいつが現れたらすぐに知らせること。ということぐらいしか決まらなかった。

 これはこれでちょっと楽しいんだけど、警棒もどきが頭から離れない。あんなの防御したら、腕がもってかれるよな。でも、避けるの下手だしな、とか考えながら歩いていた。



 おそるおそる公園に入ると、人の気配は一切しなかった。実は僕もベンチに煙草を置いて逃げたので、ヨシナオと一緒にベンチの周りを探し回った。

「なんでだよ。ないんだけど」

「俺もベンチに置いてきた煙草、なくなってるわ」

「絶対ここで落としたんだけどな」

「うーん」

 トオルやノブの手も借りてジッポーを探したが、一向に見つからない。

 走る時に落としたジッポーはともかく、ベンチに置いてきた煙草まで消えているのは妙だった。

「あいつが持ってったんじゃね?」

「ラーメンマン?」

 いつの間にか、ラーメンマンという呼称が広まっている。まあ、他に形容しようがないしな。



 その時だった。

「うおおお!」

 少し奥の方を探索していた、マサヤとアキヒロがこっちに向かって走ってくる。

 草むらみたいな場所から、ラーメンマンが現れるのが見えた。

「マジかよお!」

 家を出る前に、こいつが出たら即逃げよう、と決めておいて正解だった。今回は、逃げ遅れなかったから。




「マジでむかつくわ、あいつ」

 家の方まで逃げて、最初に口を開いたのは僕だった。

「ジッポーさ、絶対あいつがパクってるよね」

 トオルが言った後、ノブが黙ってうなずく。

「オカダの煙草もなかったんやろ?」

 マサヤに訊かれたので、うん、と返す。

「俺のスカジャンもなかったんだけど」

「あいつ急に下から出てきたから、びっくりしたわ」

 たしかに、明らかに僕らを待っているような隠れ方だった。

「どうする?」

 マサヤが皆に目をやって、訊ねた。



 小一時間話し合ったが、後半は堂々巡りになっていた。

だから、言った。

「あいつ、やっつけようぜ」

 無表情なノブも含め、みんな驚いているのがわかった。

 煙草をなくしたのはどうでも良かったけれど、それ以上に僕自身が、どうなっても良かった。警棒もどきにぞくっとしたくせに、あいつの顔面を殴ってやりたい気持ちが勝った。

「おまえ、本気で言っとんの?」

「うん。だってあいつ、武器持って公園うろついてるんだよ? 危なくね?」

 マサヤだけは僕の投げ身に気づいたようだったが、あいつを殴る理由を探した。

「捕まえて話さないと、ヨシナオのジッポーも見つからんしさ」

「諦めるって。何かあったら危ないじゃん」

 案外冷静なヨシナオが反対したが、思わぬ声も上がった。

「でも実際あのまま公園に放置も危なくね? ヨシナオのジッポーやオカッチの煙草、取り返しに来るまであそこにいるわけっしょ」

 状況を楽しんでいるのかと思ったけど、トオルは本心で言っているようだった。優しいよね、トオル。僕は、本当は煙草はもちろん、ジッポーもどうでもよかった。

「俺のスカジャンならもういいよ」

 そう言いながら笑うアキヒロに対して、僕も自然と頬が緩んだ。




 結局、ヨシナオとアキヒロはもういいよと言っていたが、トオルとノブが僕に賛成した。加えて、中立だったマサヤもこっちに乗ったため、ジッポーは実力行使で取り返すことにした。


 言い出しっぺの僕が始めにタックルで転ばせると提案したが、それはすぐに却下された。たしかに僕は体格はよくないけど、それだと立つ瀬がない。マサヤに押し切られ、始めに転ばせるのはマサヤに決まった。一番ガタイが良いし、体重の軽いノブやトオルじゃ不安だ。ヨシナオは反対派だったし。そこで、マサヤのアシストはアキヒロがすることになった。

 土壇場でアキヒロがびびらないかも心配だったが、マサヤはそれも含めてやると言うので、最初は任せることにした。

 



 三度公園に入ろうとすると、入り口の隣にやつはいた。そんな位置だったので、今度は不意をつかれず、少し離れた場所から確認できた。

 マスクに、今度は鉄バットを持って、直立している。

「もうあの立ち方がこえぇよ」

 アキヒロの言葉に、内心うなずいた。不気味すぎる。

「やっぱ来て正解だったね。あんなん通り魔じゃん、危ないわ」

 トオルの言葉にはいろいろとつっこみたかったけれど、僕はもう、変に気持ちが昂っていた。


「いくぞ」

 マサヤの一言で、アキヒロと僕はマサヤの両隣につき、ラーメンマンに近づいた。

「なんだおまえらぁ!」

 先に言葉を発したのは、向こうだった。マサヤがそれに答えたため、段取りが変わってしまった。

「おまえがなんだよ。ってか、ジッポーとか服返せよ」

 言い終わるか否かのところで、ラーメンマンは右手の鉄バットを薙いだ。

危ない! と思ったが、マサヤは後ろに下がって躱していた。けれど、つられて後ろに下がった僕が顔を上げると、やつは左手にスプレー缶を持っていた。

どうやら噴射口にテープでライターを固定してあるようで、スイッチを押すだけで炎が出た。おまえ、リアル池袋ウエストゲートパークかよ。


マサヤは炎を躱して逃げ出すと思ったが、そのまま向かっていった。これには正直炎と同じくらい驚いた。だって、マサヤはああ見えて、結構びびりなんだよ。

向かって右側のアキヒロは、左手のスプレー缶が気になって、突っ込めない様子だった。でも、よく聞き取れなかったけれど、アキヒロが何か言って挑発していたから、僕はそれができた。

マサヤがタックルで抑え込んでいるうちに、右手の鉄バットを奪い取った。すれ違いざまに身体を振り向かせると、アキヒロも殴り掛かっているのが見えた。


目の前に、ラーメンマンの背中がある。


自分でも驚いたが、あまり迷わなかった。やつの背中めがけて、僕は鉄バットを振り下ろした。


「おお!」

 うめき声が聞こえ、マサヤがタックルを解く。その刹那、アキヒロが前蹴りを入れて、一気に形勢が変わった。


 なんだか、他人事のように、眼前の光景を眺めていた。

 ノブやヨシナオまで走ってきて、やつを抑え込んでいた。一人に四人が群がっているため、トオルは後ろでどうしたらいいか迷っているようだ。



 目まぐるしくみんなが動いているのに、僕にはあの日見た浜辺からの眺めを思い出していた。

 変化のない波の揺れ、音。全部が止まっているんじゃないかと錯覚するような、あの、居心地の悪い眺め。

 何が違うんだろう。

 僕には、今目の前で起こっていることも、同じに見えた。もっと悪かったかもしれない。ひどく居心地が悪くて、何も動き出していない。心が止まったまま、時間だけが流れる現実のように。



 やつの身体を抑え込んで、マサヤがジッポーとスカジャンについて訊いていた。彼は「知らねえ! 俺じゃねぇ!」と怒鳴っていたが、やかましかったので鼻を殴っておいた。


 結局、五分ほど訊いても何も出てこなかったのと、近くを通った人が悲鳴を上げていたので、警察が来る前に僕らは引き返した。

 帰りに、パトカー二台とすれ違ったので、もう少し粘っていたら危なかったな、と思う。


 うちに着くと皆興奮冷めやらぬ様子でさっきの出来事について話していたが、僕は心ここにあらずだった。

 やつに鉄バットを振り下ろした時の嫌な感触が、ずっと手に残っていたから。





 朝から寒空が広がり、すっかり真冬になったことを思い知らされる。遅刻して教室に入ると、ナオキの姿が見あたらなかった。

「あいつ、捕まったわ」

 ショートホームルームが終わると、マサヤが教えてくれた。ナオキは窃盗などでよく捕まっていたが、今回はかなりまずいらしい。アキヒロは「今度はさすがに退学だよ。退学にならなかったら、マジでこの学校終わってるぜ」と言っていた。アキヒロがペラペラ詳細を話すもんだから、訊いてもいないのにいろいろわかってきた。

 なるほどな、今回はたしかにヤバいかもな。もったいないな、あと数ヶ月で卒業なのに。今頃、留置所か。あれ、拘置所ってのもなかったっけ? 何が違うんだろうか。どちらにせよ、やっぱ留置所って寒いのかな。あーあ、あと少しじゃん。もうちょっと何もしないで大人しくしていたら、卒業して高卒の資格は取れたのにさ。ナオキ、馬鹿だなあ。盗みは治らんって言うけど、あれホントなんだな。何もしなきゃよかったのに。


 あいつは、何がしたかったんだろう。同級生から避けられて、それでも悪事を働いて。外の変な連中とツルんでさ。周りから避けられるようなことしといて、その割に寂しがりやだったよな。僕は嫌だったけど、マサヤについてきたりして。

 本当は、友達ほしかったのかな。

 いやいや、ありきたりでしょ。そんなささやかなもののために。しかも盗みって。僕が知らないだけで、他にもいろいろやってたんだろうけどさ。どっちにしろそれって、友達とは結びつかないわ。

 じゃあ何だったんだろうな。ナオキのこと、こんなに考えたの初めてかも。どうしてだろう。あいつも、いやあいつは、動かずにはいられなかったのかな。僕はあの浜辺からの景色を見てひどく心が痛んだけど、ナオキも同じだったのかな。僕はあの時もラーメンマンの時も、なにもできずに見ていることしかできなかった。だって、バットを振り下ろしても、何も動かせた気がしなかったよ。あいつは違ったのかな。僕はもうほとんど諦めているけど、あいつは、何度も動かそうとしたのかな。それでどんどんエスカレートして。なんとかして、止まった心を奮わせたかったのかな。わかんねぇよ、そんなの。

おまえは何になりたかったんだよ。俺はダメだったよ。何度大きな波を起こそうとしても。新しい波を起こそうとしてもさ。止まったままだ。こんなとこに居たくなんかねえよ。

 遅刻欠席の常習犯の僕は、珍しく学校を早退した。




「おーい、来たよー」

「メール見たからわかってるって」

 玄関の扉を開け、アヤをうちへ上げた。

「珍しいじゃん、ユウくんからうち来いって言うの」

「そうかな」

「そうだよー」

 部屋に入るなり、アヤは早速漫画を手にとった。今八巻か、もう終わるよ、それ。

 本当は学校を早退して、カホを呼んで漫喫でセックスをしてから帰った。でも、心の中のどろっとしたものは、取れるどころか積み重なった気がする。


 アヤがポーチから僕と同じ銘柄の煙草を取り出した。やっぱおまえもそれ吸ってたよな。歯磨き粉の味なんかしないよな、な。


「おまえさ、俺の真似すんなよ」

「別に真似してないよ。ユウくんからもらった時、おいしいと思ったから買ったの」

「それ真似だろ。ってかおまえ、推薦決まってるのに外でも吸ってんの?」

「え、吸ってるよ」

「どこでだよ」

「学校の屋上とか」

 ドラマみたいなことするなと思いつつ、うちの学校は屋上立ち入り禁止だから、少しうらやましかった。

「見つかったらどうすんだよ。推薦パーじゃん」

「見つからないよ!」

 自信満々に答えているけど、騙されないぞ。おまえ、能天気なだけだろ。

「別に屋上まで行く必要なくね?」

「えっ、だって気持ちいいじゃん。明日も頑張ろうって思えるよ?」

 何がかは自覚できなかったが、アヤの言葉が胸に刺さった。いや、それに、何で明日? 学校終わってからが長いんじゃん。言ってる意味がわからなかったが、アヤはもう漫画に戻っていたので、何も訊けなかった。




 年が明けると、クラスの受験ムードも最高潮に達していた。マサヤはうちの学年で、僕が知る限りはたった一人の就職組だった。僕とは違った理由で、クラスに居心地の悪さを感じていたのかもしれない。僕もますます、学校をサボるようになった。

「今日何限から行く?」

 コメダでバナナジュースを啜っていると、マサヤが訊いてきた。が、僕の顔に何か書いてあったのだろうか、すぐに訂正する。

「今日はゲーセン行くか。おまえとアレ、最近やってないし」

 マサヤの言うアレとは、2on2での対戦ゲームのことだ。プレステのコントローラーなら慣れてるんだけど、ゲームセンターのレバーは苦手だった。それでも、僕らは何クレジットも払い、この一年そのゲームに没頭した。

 今日は気分じゃなかったけど、マサヤも気を遣って言ってくれたわけだし、栄に行くことにした。



 少し間が空いたのもあってか、僕らは全然勝つことができない。お互い不完全燃焼なので、空いているゲームセンターに行って、1on1で闘ってみた。

 顔も知らない相手に負けるのとは違って、こっちなら勝っても負けても面白い。しばらく二人でやり合っていると、彼女を連れたヒロアキがやってきた。マサヤァー、オカッチー、なんて顔に似合わない挨拶をして、僕らの隣に椅子を持ってきて座った。

「ヒロくんもサボり? やってく?」

 と訊くと

「そうそう。でもちょっとだけかな。この後クリエ行って勉強するからさ」

 予想しない答えが返ってきた。

「え? ヒロくん受験するの?」

「するよー。だってうち、父さん医者だよ? だから医学部」

「マジ?」

「マジだよ。まーでも二年計画かなあ。だから四月からよろしくね、オカッチ」

 ヒロアキは僕も受験、というか浪人すると思っているようだ。そりゃあさ、受けたい大学があれば受験もしたいけどさ、そいういうの俺、ないんだよ。なくなった。ホントは、なりたいものあったんだけどさ。




 ある日、アヤがうちに漫画を読みに来た。一々怖がりながらだから、とてつもなく時間がかかったが、なんとか今日で読破できそうだ。スウェットを貸してほしいと言うから、下を貸してやった。

 アヤが暖房つけてと言うからつけたが、暑がりの僕には少し暑い。真冬なのにうちわを持つ僕は、滑稽に写ったと思う。


「そういう」瞬間が来るのは思いがけない時で、アヤが

「やっぱ上も貸して」

 と言った時だった。


 僕は持っていたうちわを床にたたきつけ、怒鳴った。

「うるせぇんだよ! おまえが下だけで良いって言ったんだろ! だから俺言ったよな? 上は良いのかって。テメエがいらねーっつったんだろ! 何なんだよ、おまえ。おまえは良いよな、気楽でさ。俺は、俺はずーっと悩んでたよ! マサヤの腫れ物に触るような接し方や、トオルたちの俺を見る目とかよ。おまえはあるかもしらんけどな、俺はないんだよ! 頑張りたい明日なんかねぇんだよ! 知らねーよもう。知らねーって。あのな、いっつも一緒にいたやつが、明日もいてくれるかなんてわかんねえんだよ! おまえもそれ読み終わったらもう来ねえだろ。来んなよ! あーあー、どいつもこいつも、いけしゃあしゃあとしやがってよ! あのクソったれの教師たちな。あいつらと同じだろ! おまえも! 返せよ! ふざけやがって。夢か居場所か知らんけどよ、どこやりやがったんだよ。ずっと我慢してきたわ。いつの間にか俺までクソ野郎になってよ! こんな思いしてまで頑張りたくねえよ! ふざけんなよクソが。どこに行けばいいんだよ。俺の居場所なんかどこにもねーだろうが! どこに帰りゃいいんだよ! 教えろよおまえ、なあ!」



 僕は途中から、床に視線を移して叫び続けていた。

 アヤはずっと、僕の目を見て聴いていたようだった。



「ごめんね」

「私は、ユウくんたちと会って、変われたんだけどな」


「は?」


「今の学校から、親の転勤で一年東京の学校に編入してたって話したでしょ? どっちの学校でも女子からいじめられてさ、東京じゃトイレの上から水かけられたよ。『キッズウォー』かよ、って思った。名古屋戻ってきてからもね、始めはやっぱりいじめられそうになったの。今は、アサミに嫌がらせされてるってのも話したよね? 最初は、時間が経つのをただじっと待とうと思った。でもユウくんやマサヤたちと出会って、変わったかな。ユウくん言ってたじゃん、『おまえのがアサミよりかわいいんだから、堂々と言い返してやれよ』って。正直よく意味はわからなかったんだけどね。ただいじめられるのもシャクだし、あとになって、なんか妙に納得したの。それから反抗したりしてるうちに、友達までできたよ。こないだ一緒にビリヤード行ったじゃん? 楽しかったな。だから、ユウくんには感謝してるし、いつかお返ししたいって思うよ。私って笑えるんだ、って気づいたから。だから、何もかもうまくいってるわけじゃないけど、今は楽しい、かな」


 僕はずっと、床を見つめながらアヤの話を聴いていた。


 何でだよ。こんなクズになっちまった俺といて、何でそんな風になれるんだよ。おかしいだろ。おまえは、おまえはどうして変われたんだよ。俺たちと居て変われた? 確かに出会った頃よりも明るくなったし、言いたいことも言えるようになったかもしれないけどさ。そんなアヤが、俺の方こそまぶしかったよ。どうして居場所が見つからない俺が、おまえの居場所になってんだよ。頑張ってて輝いていて、自分が何処にいるのかわかってるやつ。そういうやつが誰かを支えられるんじゃないのかよ。俺はおまえに何もしてやれてねえよ。それどころか、こうやって気持ちをぶつけて。つらいのは、俺だけじゃないのに。




「そっか」


 独りよがりなのは、僕の方だった。本当の居場所は、一人じゃ創れないのに。



「ごめんな」






◇◇◇



 二年の浪人を経て、僕は東京の大学へ進学した。大学なんてものは入ってみると薄情なもので、自分から行動しなければ何もままならなかった。それでも、なんとか生きている。自らの足で立てているわけではないけれど、それなりに楽しんでもいる。居酒屋でのアルバイトも始めた。

 長期休暇に、その給料で名古屋に帰省した。帰省する日を伝えると、アイツが「迎えに行くよ」と言ってきた。

 地元の駅に着くと、相変わらず路上ライブの音が聞こえてくる。聴き屋のおじさんは、見当たらなかった。


 迎えを待つ間、コンビニに入った。

 二年前とは違う銘柄を、店員に頼む。ふと隣に目を移すと、懐かしい銘柄が並んでいた。パッケージこそ変わっていたが、やっと僕は帰ってこれた気がした。


 指輪を買ってやる間柄ではないので、僕とアイツに、その煙草を二箱買った。




























あとがき


こんな話を書いたからって、俺が変わったなんて思わないでくれ。俺は昔のままだよ、何も変わってない。


暴力や女に逃げて、最後には大切な人を亡くして、借金まで背負った。やめよう、と思って包丁を握った俺を止めたのは、お前だったよ。薬、ありがとな。あれがなかったら、俺は相手と話し合うこともできなかった。和解の場で席を外して、お守り代わりにお前からもらった名刺、あれを握りしめて俺は震えてたんだ。おかげで、戻って話ができたよ。それからお墓をつくってあげられたけど、中々足を運べてないんだ。俺は相変わらず弱いだろ。


心配して来てくれたのに、弱い俺はお前を抱いて一緒に寝たよな。


ごめんな、お前が誰にでも優しいからって、それに甘えてたんだ。でも聞いてくれよ、どれだけ腐ってもさ、ついにお前だけは抱けなかったよ。腕で抱き寄せて、それ以上何もせず、添い寝をするのがやっとだった。ただ一緒に寝ているだけなのに、あの瞬間、俺は幸せだったんだ。


 高校の頃、疲れ果てて練習中に、俺一人倒れて横になっていたのを覚えてるかな。あの時皆には分からないように、被せた制服の下から手を握ってくれたよな。強く握り返したのを、今でも覚えてる。


 前に進む勇気をくれて、ありがとう。

 

 好きだったよ。


 俺の毎日はまだ雨が降っているけれど、たまに、陽が射すんだ。


やはり読みづらかったでしょうか。


独りよがりで、文章力も無いのは重々承知しております。

それでも、具体的にご指摘頂けると有り難いです。

もちろん率直な感想もお待ちしております。


独りよがりだったり、何が書きたいの?と言われても仕方ない作品だと思います。

それでも、描かずにはいられませんでした。

読了、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 何が書きたいのと言われるのはわかってるけど、書かずにはいられなかった。 そういう気持ちはとてもよくわかります。 ただ、ご自身でも書かれてる通り、読みづらいですね。でも、個人的には、この話に…
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