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第一章 Welcome to my nightmare 7

 白く細い指の隙間から、赤い滴が垂れる。

 少女は驚いたように目を見開いて、己の胸元から流れ出す血を見ていた。断続的な音を立てながら、床の上に血が滴り落ちる。

「嘘でしょう・・・」

 黒衣の少女は、先程とは打って変わった力ない声でそう呟くと、目の前の血溜りに横たわる使役神を見た。

 彼女の忠実な狼は、ぱっくりと開いた腹部から腸の一部をはみ出させて死んでいる。赤黒い舌が口の端からだらりと垂れ、その両眼にもう光はない。

「鬼丸・・・天竜・・赤目・・犬鬼・・隼斗・・・」

 少女は順番に使役神たちの名を呼んでいくが、それに応えることが出来たのは天竜ただ一匹だけだった。

 他の獣達は既に、物言わぬ肉の塊となっている。

 だがその天竜も右の前足を失い、ひょこひょこと飛び跳ねるようにして歩いてくる。近付いた獣のその背には、真っ直ぐ傷口が走っており、肉のこびりついた白い骨が見えていた。

 狼は小さく鼻を鳴らして、主人の手の平に鼻面を押しつける。少女はその頭を軽く撫でてやると、唇を噛んで少し離れた所に立っている人間を睨み据えた。

「ついに本性を現したな、夜久野真名。まさか貴様などが〈明星あけぼし〉を使い熟せるとは、思ってもみなかったが・・・」

 少女の視線の先、夜久野真名――近藤愛美が小刀を手に身動ぎ一つせずに立っている。俯いている為、その表情は分からない。刃渡り20㎝程の刃物は、血に濡れて鈍い光を放っていた。

「私では相手が、務まらないようね」

 そう言って死神の仮面を外した少女は、もう一度強く唇を噛み締めた。

 鬼丸――彼女の使役神が、夜久野真名へと跳びかかったあの瞬間。光が一閃した。鬼丸は一声叫ぶと重たげに床へと落ちた。と見る間に床の上に赤い血の海が広がっていき・・・

『何ぃ?』

 次の瞬間、目の前に夜久野真名の姿があったかと思うと、胸に鋭い痛みを感じた。

 その後のことが、よく分からない。だが気が付いた時には、狼達は夜久野真名を相手に死闘を演じていたのだった。主人を守る為に狼達は必死だ。だが白い光が閃く度に、傷を負うのは狼の方だった。余裕たっぷりに応戦する夜久野真名の手に、何かが握られている。

 ナイフ? いな、あれは・・・

『まさか〈明星〉?』

 狼の内最後の一匹が、断末魔の痙攣を起こし、二度と立ち上がることが出来なくなるのに、物の数分とかからなかった。

 夜久野真名は、その場に立ち尽くしたまま、死体の山を見下ろしている。鈍い痛みを覚え、胸元を押さえると、じわりと血が吹き出すのが分かった。

 不意に少女の傍らで、天竜が耳をそばだてた。少女も夜久野真名から目を逸らし、外を窺う気配を見せる。

「結界内に侵入者があったようね・・・」

 彼女はぽつりと呟くと、再び死神の顔に戻った。

「貴様の始末は、那鬼様がおつけになられるであろう。私はここで退くが・・・貴様のその〈明星〉必ず我らが掌中に、とり戻してくれようぞ」

「行くぞ、天竜」

 少女は使役神にそう声をかけると、胸の傷をものともせずに窓枠に跳び乗り、窓の外へと姿を消した。天竜もそれに続き床を蹴ると、もうそこに姿はなかった。

 後には無残な死体の山と、虚ろな目をして立ち尽くす夜久野――近藤愛美だけが残された。


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