第三章 Fallen Angel 1*挿し絵付き
愛美が、靴箱でローファーから上靴に履き替えていると、大西晶子が登校してきた。愛美は、硬い表情に変わると挨拶もしないで、そそくさと晶子の側を離れ教室に向かおうとした。
「あら、近藤さん。今日もナイフを持って御登校? 鞄の中に、そんな物が入ってるって先生が知ったら、驚くでしょうね」
愛美は、全身に冷水を浴びせられたような恐怖を覚えた。
(やっぱり、こいつだったんだ)
昨日愛美が、放課後の中庭の掃除当番を終えて教室に戻った時、鞄が誰かに開けられたような痕跡があった。その日も担任から、学校内の盗難への注意を喚起されていたが、財布は無事だった。
愛美は釈然としない思いと、言い知れぬ恐怖を感じていたが、予感は的中した。愛美が言葉を失くして立ち尽くしていると、ちょうどその時大西晶子の取り巻きの一人が、靴箱の所にやって来た。
野沢舞は、晶子と意味深な視線を交わすと、愛美を無視して二人で笑い合いながら教室に行ってしまった。愛美は暫くその場で唇を噛み締めて立っていたが、諦めたように重い足を引きずって歩き始める。
愛美が暗い顔で教室の扉を開けた途端、歓声と口笛に包まれていた。愛美はたじろいで数歩後退さったが、アズが飛んできて、愛美の腕を掴むと教室に引っ張り込んだ。
愛美は、本能的に大西晶子とその取り巻き達を目捜ししたが、彼女達は苦々しい顔をして愛美の方を決して見ようとしなかった。
「昨日のあの男の子は誰だ。狡いよ、マナ。隠してるなんて、友達がいがないぞ。前の学校の彼?」
愛美は何が何だか分からなくて、目を白黒させた。アズがそう言った後を、別のクラスメイトが囃し立てる。
「マナの彼。ずっと校門で待ってたのよ。格好いい人よね。年上? なんかスポーツやってるんでしょ?」
愛美はその言葉に、ようやく合点がいった。愛美がミヤスケの方を見ると、思った通り、ミヤスケはごめんと口の形を作って愛美を拝んでいた。
「あの人は、その・・・友達って言うか・・・その・・・。やだなぁ、そんなんじゃないよ」
愛美は両手をせわしく振りながら、頬が赤らむのが自分でも分かった。昨日のことだ。中庭の掃除を終えて、同じ掃除当番だったミヤスケと校門前で別れようとした時、変わらぬ笑顔で現れたのが東大寺だった。
バスケの対外試合が行われた日に会って以来なので、約三週間ぶりの再会となる。自転車通学のミヤスケと、駅に向かう愛美はそこで別れたのだが、ミヤスケが口を滑らせて東大寺のことを話してしまったらしい。




