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第二章 March of Ghost 30

「アルの病状が落ち着いていますので、私もそろそろ仕事を再開しようと思ってるんです。暫くしたら、私も忙しくなりますし・・・」

 モデルの仕事にも復帰するのかと聞いた愛美まなみに、紫苑しおんは頷いて東大寺とうだいじ君に聞いたんですねと笑った。

「モデルなんて大層なものではありませんよ。服飾雑誌などで、ちょっとお仕事させてもらっていただけです」

 謙遜か本心か、紫苑は照れたように話題を変えた。愛美と紫苑は、暫くたわいもない話をして、お休みなさいの言葉とともに電話を切った。

  *

 愛美が浦羽うらわ学園に転校して、一週間が過ぎた。友達と呼ぶにはまだ付き合いが浅いが、クラスメイトともどうにかうまくやっている。

 突然何の脈絡もなく現れる右近うこん左近さこんのことさえなければ、もっと愛美はクラスに馴染むことができただろう。

 六時間目は、愛美の好きな日本史の授業だ。浦羽学園も進学校だが、三崎高校よりも授業の進む速度が遅かったので、授業に取り残されずにすんだ。

 愛美は了解を得てから、机の上の箱からイチゴ味のスティック菓子を一本もらって食べる。

「マナちゃんはいい子だよね。アズなんか、休み時間になると勝手に人の鞄開けて、お菓子出すんだよーっ」

 愛美の綽名は、小さい頃からマナだった。本名が夜久野真名やくのまなだったことを知ってからは、この名前で呼ばれると複雑な気分がする。

「ミヤスケの鞄は魔法の鞄。お菓子にマンガに・・・これは何だ? 何でぬいぐるみまで入ってるかね」

 教卓の前から二番目の席。転校してきた愛美に、担任が用意してくれた席だった。愛美の前の恐怖の教卓前の席に座るのは、田中美弥子ことミヤスケだが、今はその友人の芹沢あずさに占領されている。

 アズは、手の平サイズの猫のぬいぐるみのしっぽを掴んで逆さ吊りにした。

「私のクロさんを乱暴に扱うなーっ」

 ミヤスケはそう言って怒ると、あずさの手から猫のぬいぐるみを奪還した。愛美が最初に友達になったのは、席が前のミヤスケだった。あずさは、廊下側の一番後ろの席だ。ミヤスケは、今まで愛美の周りにいた友達の誰とも違っていた。最初に声を掛けてきたのはミヤスケの方だ。

『始めまして。田中美弥子です。みんな呼ぶからミヤスケって呼んでね。近藤さんは、なんて呼ばれてたの?』

 ホームルームが終わった途端、後ろを向いたミヤスケはそう言ってにっこりと愛美に笑いかけた。愛美は、自己紹介の時の教室中の突き刺さるような視線に恐れをなしていたものの、いっぺんに毒気を抜かれてしまった。

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