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第二章 March of Ghost 29

 東大寺とうだいじの言葉の裏に隠れた本心は、愛美まなみには届かなかった。転入慣れしている東大寺の適切なアドバイスを理解する程、愛美はまだ現在の日常に慣れてはいない。

「SGAで東大寺さんは、どんなお仕事をしてるんですか?」

 東大寺は何か言おうとして指を突き出したまま、チキンナゲットを飲み込むまでの暫くの間黙っていた。

「色々やけど。俺と長門ながとは肉体労働専門で、巴と紫苑は頭脳労働専門。紫苑しおんは怪奇現象もやけど、実際に動くんは俺やし。普通俺は、学校関係の仕事が多いかな。口では説明しにくいから、〈何でも屋〉言うしかないねん」

 愛美は、東大寺の言葉に曖昧に頷くしかなかった。東大寺はそれから夜の八時ぐらいまでいて、二人で玉子入りのラーメンを食べた後、家に帰っていった。明日も部活の朝練があるのだそうだ。

 愛美は洗い物をして、風呂に入ろうとした時、ふとリビングのサイドボードに置いてあった紙きれに目がいった。

 聖マリアンヌ教会の文字と、電話番号。

 愛美は紫苑しおんに電話をかける気になった。受話器を取り上げ番号をプッシュした後で、愛美は後悔した。別に大した用事がある訳ではない。明日から学校に通う。ただそれだけの話で電話なんかかけたら、紫苑に迷惑だろう。

 愛美の心の焦りも知らず、電話が五回目の呼び出し音の後で繋がった。

「はい。聖マリアンヌ教会です」

 一瞬愛美は紫苑自身かと思ったが、声は紫苑のそれよりも老成していた。それでも優しく穏やかな調子は、紫苑にそっくりだった。病気だと言う、神父に違いない。

「夜分に申し訳ありません。近藤愛美と言いますが、紫苑さんはご在宅でしょうか?」

 愛美が緊張を押し殺してゆっくりそう告げると、相手は暫くお待ち下さいと言って、受話器を下ろした。小さな音量で、オルゴールの小犬のワルツがかかる。曲が途中で切れ、紫苑の声が聞こえてきた。

 紫苑は、電話をくれて嬉しいと本当に嬉しそうな声で言った。愛美もその声を聞いた途端、ホッとした。愛美が浦羽学園に転入する旨を告げると、紫苑は楽しい学校生活を送れるといいですねと言ってくれた。愛美もそれに頷く。 

 紫苑が、明日の転校初日の挨拶には保護者としてついて行くと言ってくれたが、愛美はそれを丁寧に断った。そこまで甘えることはできない。

「明日の夜にでも、東大寺君とともに転校のお祝いにでも行きますね」

「でも東大寺さん、明日から仕事で忙しいって言ってましたけど?」

 紫苑の提案に愛美が口を挟むと、彼は何か思い出したらしく、対外試合までは仕事は控えると言っていましたっけと呟いた。紫苑は残念そうな口調になる。

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