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第二章 March of Ghost 28

「日曜日でも部活があるから、運動部は大変ですね」

 東大寺とうだいじはその言葉に首を振ると、愛美まなみにファストフードの包みを手渡して、自分は脱衣所の洗濯機に洗濯物を放り込みに行った。

 東大寺は、バスケ部のレギュラーだ。身体を動かすことが大好きで、学校の授業時間は苦痛だが、部活の始まる放課後になるとホッとする。

「今日は対外試合やってん。勿論うちの圧勝」

 東大寺は愛美に、Vサインをして見せた。愛美が無邪気にパチパチと手を叩く。

「シャワー浴びるから、先食っといてくれていいで」

 東大寺が脱いだTシャツを洗濯機に突っ込みながらそう言うと、愛美が慌てて背を向けて、自分も制服を着替えてくると言って、脱衣所から出て行った。

 愛美は東大寺と一緒にダイニングテーブルについて、ハンバーガーに噛じりついた。東大寺は、シャワーを浴びてすっきりした顔をしている。着ていたトレーニングウェアの代わりに、デニムと赤いTシャツを身につけていた。 

 SGAのメンバーに合わせた日用品が、このマンションには常備してあるらしい。真新しいシャツとブルーデニムは、東大寺に合わせたようにぴったりだった。愛美が、明日から新しい学校に通う不安を洩らすと、東大寺は何でもないことのようにポテトを頬張りながら言った。

「俺なんかSGAに入ってから一年間に、仕事の都合で四、五回転入させられとるからな。転入のプロやで。まあ、新しい学校でも気張らんと、基本はマイペースやな」

(マイペースか)

 東大寺さんらしいやと、愛美は思う。前に言っていた、一年次に二年の授業を受けたと言うのも、仕事の関係だったのだろう。

 明るくて面白い東大寺なら、どこに行ったってうまくやっていけるに違いない。愛美には、その自信はない。中学を卒業して高校に入学した時も、同じように不安だった。

 三崎高校を受けて合格したのは、愛美を含め男女合わせて六人しかいない。みんなクラスが別れてしまい、愛美は友人ができるか最初の数日間は不安で仕方なかった。一週間もすると深く付き合えそうなクラスメイトが見つかり、一ヶ月も経つと学校は愛美にとって居心地のいい場所となった。

 しかし、愛美が積み重ねてきた平凡な日常と言う幸せは、手の平に汲んだ水が指の隙間から零れ落ちるように、抗えない運命の流れに飲み込まれ失われてしまった。

 もう一度築きあげることは、はたして可能なのだろうか。

 八割の不安と二割の期待に胸を塞いでいる愛美に、東大寺はできるだけ素っ気ない調子で、本心を気どられないように言った。

「学校で過ごす時間なんか、たかが知れてるからな。適当にやりや」

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