第二章 March of Ghost 27
愛美は、綾瀬に拾われたようなものだ。SGAのメンバーにはなったが、東大寺や紫苑、長門が愛美を仲間と考えてくれているかどうかは、甚だ疑問だ。
(私には居場所がない。私は一人だ)
愛美は迷子になった子供の頃のように、身体一杯に孤独を感じた。再び溢れそうになった涙は、すぐに引っ込んだ。
左近の熱い舌が、愛美の頬を舐めていた。愛美はぎょっとして身を引く。
――フム、アマリ旨クハ無イ味ジャ
――器量良シトハ、言イ難イモノナ
左近と右近はそう言うと、顔を見合わせて低く笑ったようだった。愛美は枕を掴むと、天井の隅の山犬神に枕を投げつけた。笑い声だけ残して、右近と左近の姿が消える。
「何よ。失礼ね」
愛美はそう言いながらも、胸に温かいものが流れ込んだようだった。頬にかかった山犬神の妙に獣臭い熱い息と、滑らかな舌の感触。
右近と左近は、彼らなりに愛美を慰めてくれていたのかも知れない。
*
東大寺は、肩から下げたスポーツバッグを背中で揺すると、ジャージのポケットからキーホルダーのついたマンションの鍵を取り出して鍵穴に差し込んだ。しかし、鍵はかかっていなかった。
東大寺は不用心やなぁとボヤきつつ、部屋に入るとブランド物のスポーツシューズを脱いで廊下に上がった。廊下の壁に東大寺が開けた凹みは、まだそのままだった。
(昨日の今日で修理するのは、幾らなんでも無理か)
東大寺は、荷物を玄関の脇に下ろし、汗の染み付いた青いユニホームを取り出した。その時、扉の開く音がして東大寺は顔を上げた。部屋から愛美が、顔だけ覗かせている。東大寺は、片手でハンバーガーショップの包みを持ち上げて見せた。
「愛美ちゃん。昼飯まだやったら、一緒に食わへん?」
愛美はその言葉には頷かず、えへへと笑うと東大寺の前に全身を晒した。手には、艶やかな黒のローファーを持っている。白いセーラー服。襟は水色で、スカートは紺色だった。
東大寺は思わず、ハンバーガーの入った袋を落としてしまった。食べ物を粗末にするなどとんでもない。抜群の瞬発力で、床に落ちる前に掴み取る。
「めっちや、可愛いやん」
愛美は照れ臭そうに笑って、東大寺の側に近付くと、玄関の靴脱ぎにローファーを揃えて置いた。
「明日から浦羽学園に通うことにしたんです。ここにいてもすることないし・・・。制服着てみたんですけど、前もセーラー服だったから、どうせならブレザー着てみたかったな、なんて」
東大寺はつい愛美を抱き締めようとしたが、運動して汗だくだったことを思い出すと、もう一度可愛いと言うだけに留めておいた。




