表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/160

第二章 March of Ghost 24

「ちょうどそれについては、ともえが調べをつけたところだ。その二人は幼い頃、両親を邪鬼か何かのたぐいに憑り殺されたらしい。二人は何者かによって命を救われ、養護施設で育てられた。ところが、命の恩人が実は両親を死に至らしめた張本人であり、それが夜久野やくのに関わる者だったと言うことを知る。逆恨みと言えば逆恨みだが、彼らは夜久野全般を恨んでいるようだ。数年前、上月こうづき家に拾われ、そして今に至ると言う訳だ」

 綾瀬あやせの言葉には、虚構の匂いがした。全てが嘘だと言いきる自信は愛美まなみにはないが、何かを隠しているようではあった。

 愛美が夜久野真名である可能性を挙げ、それを否定した時の綾瀬の口調と似通ったものがある。しかし含みを持たせた話し方をするのは、ただ単にこの男の癖なのかも知れない。

「心が頑なになると、人間は盲目も同然だ。それ以外のものが見えなくなる。憎しみに心を奪われた者には、道理も何も通用しないからな」

 綾瀬は一体、何を言いたいのだろう。逆恨みで、愛美の両親と弟の命を奪った神坂かんざか兄妹のことを言っているのか、両親とクラスメイトを奪われ、ともすれば二人に対する憎しみに、支配されそうになる愛美に釘を差しているのか。

 それとも・・・?

 愛美は考えるのをやめにした。多分、綾瀬に聞いてもはぐらかされるだけだろう。愛美は紅茶を飲み、ようやくケーキに口をつけた。

 綾瀬からの夕食の誘いを断り、愛美は秘書の西川の運転する車によって、マンションに送り返された。車の中では、殆ど会話らしい会話はなかった。だんまりを決め込んでいる長門ながとのそれとは違い、物静かな大人の女と言った雰囲気だ。

 秘書の西川は、二十代の後半ぐらいだろうか。社長と秘書以上の繋がりを、綾瀬と西川から愛美は感じた。しかしそんな不粋なことを聞くのもなんなので、黙って夕闇に消えて行く街を見ていた。

 礼を言って車から降りた愛美は、エレベーターで四階に上がり、405号室の扉を開けた。SGAのメンバー全員が、持っていると言う合鍵。愛美は肩に食い込んでいた教科書入りの学生鞄を玄関に置くと、大きく溜め息を吐いた。日用品や制服の入った紙袋も、鞄の隣に並べた。

 非日常の中でさえ変わらない日常があることに、愛美は驚きと微かな疲労感を覚える。

 ふと愛美の視線が、廊下の壁に向けられる。愛美は広範囲に渡って凹んだ壁を見ると、思わず笑みを洩らした。

 玄関に向かった紫苑しおんがそれを見つけた時の、東大寺とうだいじのバツの悪そうな顔と言ったらなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ