第二章 March of Ghost 21
東大寺がすぐに顔を引き締めると、長門に出かけるのかと聞いたからだ。長門は新しい服(黒のボトムに、釦を一つしか止めない白いシャツと言う出立ちに変わりはないが)に着替えているが、まだ少し髪の毛が濡れていた。
「綾瀬から、次の仕事の連絡があったからな」
長門は短く答えると、靴を履いて扉から出て行った。今帰ったばかりだと言うのに、慌ただしいことこの上ない。先程の綾瀬からの電話は、長門への仕事の依頼だったようだ。
綾瀬はそう言えば、長門がボディガードだと言っていた。無愛想でアル中で、腹の立つ奴ではあるが、確かに銃の腕は相当なものだと愛美も思う。
「そう言えばあの人って、ボディガードなんですね。SGAって、本当によく分からない会社だわ」
首を傾げる愛美に、東大寺は何でもないことのように頷いた。
「表の顔はボディガード。しかし、裏の顔は殺し屋。普通の高校生の俺も、実は超能力者やしな。今は辞めてるけど、紫苑は前はモデルやってん。紫苑に言われたやろ。SGAは何でも屋やって」
長門が殺し屋。
(何でも屋って言われても・・・)
何度も命を狙われ、非日常的な目に遭いながらも、愛美はまだ常識を捨てられないでいた。
ちょうどそこに、愛美を呼ぶ紫苑の声が聞こえた。遅い昼食の用意を、手伝って欲しいと言っている。
愛美が廊下からキッチンに消えた途端、東大寺は浮かべていた笑みを消した。
「胸糞悪い野郎や。俺の過去を知っとるからって、いい気になりやがって。俺を拾ったんを恩に着せるんは、ええ加減止めてもらいたいもんや」
恐い顔をして、そこにはいない誰かの姿を睨んでいた東大寺は、握り拳で老化の壁を殴りつけた。ドンと鈍い音がして、壁が凹む。
途端、東大寺はいつものお気楽な表情に戻っていた。頭を抱えてその場に座り込むと、うわっちゃーと呻いた。
「見つかったら、また紫苑に怒られるやんけ」
「東大寺君、食事の用意が整いましたよ」
いつも騒がしい音を東大寺は立てているので、今の音も紫苑は別段不審には思わなかったらしく、それに対する反応はない。
紫苑の声に東大寺は焦ったものの、すぐに気を取り直していつもの明るい返事を返したのだった。
*
愛美は部屋に通されソファに案内されたが、すぐには席にはつかなかった。
「やだ、可愛い。バンダナなんかつけてる」
綾瀬の秘書を名乗った西川と言う女性は、嫌がるクラディスを追いかけ回す愛美を、微笑ましい様子で眺めながら、お茶の用意をする為に部屋を出て行った。




