表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/160

第二章 March of Ghost 17

 なぜ夜久野真名やくのまなとして生まれた自分が、近藤愛美こんどうまなみとして生きてきたのか。十年前何が起こったのか、愛美は知りたいと思ったし、知る権利がある筈だった。

 突然愛美は、誰かに見られているような気がした。

 部屋の空気が、澱んでいる。

 愛美は恐る恐る目を開け、その瞬間、金縛りにあったように動けなくなった。天井近くに浮かび上がった黒い影のようなものが、四つの目で愛美を見下ろしている。

――ホウ、目ヲ開ケタ

――ヤハリ、陰陽師ニハ見エヌ

――ウム、陰陽力モ感ジラレヌ。タダノ子供ジャ

――先ハ見エタノ

 黒い影は、愛美の目に二匹の年老いた犬の姿となって映る。犬は赤い舌を出して、べろべろと口の周りを舐めた。

「一体何なの、あなた達。私を食べる気?」

 愛美がようやく呪縛から解かれてそう言うと、二匹の犬達は老人のような低い笑い声を洩らした。

――食ベル? コノ娘。陰陽師ニハ、程遠イ。我等ヲ、知ラヌゾ

――シカシ、小刀ノ、持チ主デハ、アル。我等ガ、見エルヨウダ

――我等ハ、コノ家系ニ、着ク、付喪神。コノ家ヲ、守ル者

――代々、コノ家ノ、主ニ仕エ、二百余年

 彼らは、家に憑く家神の一種だと言うのか。年を経て古くなった物には霊力が宿るという考え方が、昔の日本にはあった。江戸時代に描かれた鳥山石燕の、百鬼夜行絵図にある、しゃもじや琴のお化けは、古くなって霊力を得た付喪神の姿である。

 二匹の付喪神は、普通の犬のような仕草で、ちょこんと前足を組んで愛美を観察している。

「私に何か用があるの?」

 愛美は恐怖心も忘れ、布団の上に起き上がった。

――其方そなたハ、何者ジャ。其方ハ、陰陽師ナノカ?

「私は近藤愛美。陰陽師じゃない。普通の女の子。でも本当は私は夜久野真名で、陰陽師の一族の末裔なの」

――世ノ中カラ、闇ガ失クナリ、我等ノ仲間モ、減ッタ

――陰陽師モ、消エタカト、思ッテイタガ

 二匹の付喪神は、顔を見合わせ慰め合うかのように、鼻を押しつけあった。

――其方ニハ、鬼ヲ見、ソノ声ヲ聞ク、能力ガアル

――ソレハツマリ、其方モ我等ト同ジ、闇ニ生キル者ダカラ

――陰陽師、ソレ即チ鬼ノコト、人ニ疎マレ、闇ニ生キル、忌ムベキ存在ナリ

 鬼を祓う立場にある陰陽師が、なぜ鬼と同じなのだろう。

「それは、どう言うこと・・・?」

――闇ヲ払拭スル、力ヲ持ツ、陰陽師モマタ、闇ノ者。陰陽師ノ末裔トハ、其方モ、可愛ソウニ。闇ハ闇ヲ呼ビ、人ヲ不幸ニスル。ソレガ陰陽師トシテ、生マレタ者ノ運命さだめ・・・

 だから、だから愛美の両親やクラスメイトは、あんな目にあったと言うのか。愛美が、陰陽師の末裔であったが為に・・・。

(いや、そうじゃない)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ