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第二章 March of Ghost 16

 しかし途惑っているのは愛美まなみだけで、長門ながとは早速ワンドアの冷蔵庫からビール瓶を出すと、もう飲み始めていた。元々日帰りのつもりだった為、帰りの運賃を考えると二部屋取るのは無理だった。

 長門は、強行軍で今夜中に東京に帰るつもりだったらしいが、暗い足元と、山道に不慣れな愛美の体力切れで、それは断念せざるを得なくなった。

 空港から吉野まで、二時間は掛かった。長門は自分のペースで、最初から行程を組んでいたのではないか。半日でまとめきれないこともないが、もう少し余裕が欲しかった。

 仕方がないが、よりにもよって長門と同じ部屋で一晩過ごさなければならないなんて、愛美には我慢ならない。

 大浴場は閉められていて、部屋にある家族風呂しかない。愛美は、汗と汚れを落とすことにする。井上の為の墓穴掘りをした長門は、勝手に寺で水を使って汚れを落としたらしく、帰りの行軍の跡も見えない。

 愛美が一度の恨みを当然覚えていて、

「お風呂、覗かないでよ」

 と言うと、

「見たくもない」と言う、失礼な答えしか返ってこなかった。

 風呂に入って浴衣に着替えると、少しは人心地付く。そうこうしている内に、食事の用意も整った。

 大したものはありませんがと女将が出してくれた食事は、和食党の愛美には堪えられない茸を使った料理だった。いつもの愛美なら、ダイエットもなんのその、二膳目の御飯を所望するところだが、一口箸をつけただけで何も喉を通らなかった。

 長門は日本酒を頼み、茸の天ぷらや、煮付けなどを酒の肴にして飲んでいる。愛美は運動のしすぎで、お腹が空くよりも気持ちが悪くて仕方がなかった。

「寝る」

 愛美は一言そう言うと、女将が床を延べてくれた隣の部屋の襖を開いた。

「やだ、何これ」

 部屋の真ん中に、布団が二組並べて敷いてある。愛美だって、子供ではない。その布団が意味するところは分かる。愛美は冗談じゃないわよと呟いて、二つの布団を部屋の両端にそれぞれ離して敷き直した。

「鼾でも掻かれちゃ敵わないからな。俺は、こっちで休む」

 長門の言葉に愛美はああそうと鼻息も荒く、布団を外に放り出し襖を閉めた。寝ている間のことなので、なにぶん分からないが、鼾なんか掻いたりしない。

(やっぱり気に入らない男だ)

 愛美は再び布団を真ん中に寄せると、その上に横になった。

 肉体的にも、精神的にも疲れる一日だった。

 最低だと思う。

 自分が近藤愛美ではなく、全く別の人間だったなんて、信じられないし信じたくなかった。〈明星あけぼし〉の封印を解いた時、脳裏に流れ込んできた記憶は、確かに愛美が体験したものだろう。

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