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第二章 March of Ghost 14

「どうか夜久野やくの家を再興・・。貴方様なら真央まお様のような・・・立派な陰陽師に・・・」

 老人の手が、重力の法則に逆らわずに落ちた。閉じた目が開かれることはもうない。まだ温もりを失っていない手から、愛美まなみは自分の指を解いた。老人の死に顔は、驚く程穏やかだ。

「やくのまお・・・」

 知らぬ間に、愛美の背後に長門ながとの姿があった。愛美は振り返らずに、小さく頷いた。

「私の祖母の名前だわ。夜久野真名。それが私の本当の名前。私の所為でみんな死んだのよ。この人だって、私さえ来なければ死なずに済んだのに」

 長門は、下手な慰めなどは言わなかった。

「その通りだろうな。だが、お前一人の責任じゃないだろう。誰か一人の所為に出来る程、ことは簡単か」

 長門は、思ったより傷を負っていなかった。衣服が引き裂かれ、身体中に赤い筋がついていたが、本人は至って平気らしい。大丈夫かと問う愛美に、彼は慣れているとすげない返事を返した。

「遺体を始末してくる」

 長門は老人の朽ち木のような身体を抱えると、愛美に背を向けた。

「どうするの?」

荼毘だびは無理だから、埋める」

 お堂の裏手に姿を消した長門の後を、愛美は追わなかった。愛美は、突き立てたままの〈明星あけぼし〉を土から抜くと、服の端で綺麗に泥を拭い鞘に納めた。そして立ち上がると、化け物であった泥の塊の一体に近付いた。

 どう見てもただの土だ。愛美は足で、その塊を踏み砕く。土の中から、小さな割れた木片が出てきた。汚れを指で払うと、木片には不思議な模様と書き崩した文字が踊っていた。その時愛美は、もう一つ別の物を見つけた。

 弾丸の形に整えられた粘土玉。それにも、不思議な模様が彫りつけてあった。愛美は、自分の考えが正しいかどうか確かめる為に、暫くの間無言で辺りを探索した。

 今愛美の手の中には、二つの弾丸が握られている。一つは普通の鉛弾、そしてもう一つが模様の描かれた粘土玉。

 つまりそう言うことか。

 愛美は納得して、その二つを森の中に向けて投げ捨てた。

(長門が外したんじゃない、効かなかったんだ)

 愛美は土蔵の前の石畳に腰を下ろした。老人の倒れていた辺りの土は、血を吸って黒ずんでいる。愛美は、土を掻くザクッザクッと言う音を聞きながら、〈明星〉を胸に強く抱いた。

――あなたには聞きたいことが、こんなにもあるのに・・・。

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