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第二章 March of Ghost 13

 不意に、どこかで悲鳴が聞こえたような気がした。愛美まなみは、はっとして顔を上げた。蝋燭の光がチラチラと揺れ、目の前には白木の扉が開いたままになっている。

 銃声が一発、二発、三発。

 愛美は短刀を鞘へと戻すと、立ち上がった。土蔵の扉を力を込めて開く。ギギギギと嫌な音をさせて戸が開き、陽光が愛美の目を射た。目を細め、最初に見たものは、血に塗れて倒れている男の姿だった・・・。

「井上さん」

 土色の気味の悪い生き物が、土蔵の周りを取り囲むようにして何十匹といる。さっき襲ってきたのと同じ奴らだ。

(仲間がまだこんなにいたなんて・・・)

 長門ながとの銃が、その生き物達を的確に葬り去っていくが、彼の顔に狼狽するような表情が浮かんだ。彼が舌打ちするのと、拳銃の弾が底をつくのはほぼ同時だった。

 長門はポケットから弾丸を取り出し、素早く銃倉に詰めた。無駄のない動きで狙いを付けると、すぐさま撃った。だが、相手は倒れなかった。

(彼が、初めて外した?)

 畜生、長門は忌々しげに呟くが、何度撃ってももう当たらなかった。それが、化け物どもにも分かったのだろう。恐るるに足らずと、一斉に長門へと襲いかかる。空しく銃声だけが空に谺し、長門の身体から鮮血が飛び散った。

「いやっ、やめてぇ」

 愛美は力の限り叫んだ。ふと、名前を呼ばれたような気がして、愛美は辺りを見渡した。

「〈あけ・・ぼ・・〉地に刺し・・・戻れと・・土・戻れと・・・」

 井上老人が、苦しげな息の下で愛美に何か伝えようとしている。

「〈明星あけぼし〉を地面に刺すのね。刺してどうするの? 戻れって言うの?」

 愛美がそう聞くと、老人は激しい息遣いで頷いた。

「邪鬼・・・土にもど・・・」

 その後、ゴボゴボと嫌な音をさせて老人は血を吐いた。愛美は藁にでも縋るような気持ちで、短刀を抜くと両手で地面に突き立てた。

「戻りなさい、土に戻って、戻ってよ」

 長門が、ガクリとその場に膝を折った。

 あか・鮮血・死。

 愛美は頭が真っ白になり、絶叫した。

ねぇっっ!」

 その瞬間、〈明星〉が爆発したような閃光を発した。

 全ての音が途絶え、無音の世界が広がる。邪鬼どもは、悲鳴一つ上げることさえ適わぬまま、地に崩れ落ちた。後には乾ききった泥の塊だけが、辺りに散らばっていた。

「流石・あの方の・・孫・・お待ちして・・甲斐がありまし・・・」

 愛美は井上老人の側に駆け寄ると、血に濡れた手を握った。老人の目は愛美を見てはいたが、もう何も見えていないようだった。愛美は頭を振って、嫌だと何度も呟く。

「あなたには、聞きたいことが沢山あるの。お願い。死なないで。死んじゃ嫌だ」

「お先に御・・・当主様のところへ・・参りま・・・」

 老人は優しく微笑んで、涙を伝わせる愛美の頬にそっと触れた。細くしなった、枯枝のような指だった。

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