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第二章 March of Ghost 11

 頬は削ぎ落としたように肉がなく、顔には深い年輪が刻まれている。その目は穏やかな光を宿していた。

 愛美まなみは慌てて頭を下げる。男は微笑んで中に入るよう手招きすると、奥へと入って行った。長門ながとは愛美に先に行くように顎で示し、自分は愛美の後ろから付いていく。

「この日がくるのを、私はどれ程待っていたことか」

 男は、愛美達二人を居室に案内すると暫く姿を消し、次に現れた時には茶器を携えていた。二人に茶を勧めながら、男はそう言った。二人に何をしに来たなどとは、一切問わなかった。

「申し遅れまして、私はこの山寺の住職を務めております、井上と言う者です。貴方様方の到着を、心よりお待ちしておりました」

 井上と名乗る男はそう言って、二人に深々と頭を下げた。愛美は焦っておろおろとするが、長門は知らん顔で明後日の方を見ている。自分は関係無いと言いたげだ。

「あ、あの。どうして私達が来ると分かったんですか?」

「七日程前ですかな。山の精が騒ぎ出したのは。そしてつい先程、邪鬼の気配と銃声を耳にしまして、その時がきたと知ったのです」

 井上は目を細めるようにして、感慨を込めて言った。

「大きくおなりになって、貴方様にお会いしたのは、貴方様がまだ三才にもならない頃でしたか・・・。お亡くなりになった御当主殿も、さぞかし貴方様の御成長を喜ばれておられることでしょう」

 愛美は怪訝な顔をして、井上を見る。

「これは失礼。年寄りの戯言とお忘れ下さい。貴方様にお渡しする物が御座いまして、どうかこちらへ」

 男は柔和な笑みを見せると愛美に頷いて、長門にはここに残るようにと言った。長門が自分のことは放って置けと、目顔で愛美に合図する。愛美は長門を気にしつつも、住職の後に続き部屋を出た。再び靴を履き、瓢々とした雰囲気を漂わせる老人の背中について行く。

 小さな山寺は、荒れ果てて今にも山の中に埋没してしまいそうだ。お堂の屋根にも草が生え放題で、この寺には住職以外の人間の気配はなかった。

 その井上老人は、愛美を土蔵のような建物へと案内した。外から見た限り、かなり大きな建物である。

 その建物だけがきちんと手入れされているようで、扉には木製の錠が掛けられていた。井上は懐から取り出した木の鍵で、扉を開いた。

 ざわりと風が吹き抜け、木々の枝を揺する。

 愛美は何か言葉には出来ない不安を感じて、辺りを見回した。

「お気付きに、なりましたか。山の精が騒いでおりまする。ささ。中に入り、祭壇の扉を開かれるがよい。さすれば、何をどうすべきか貴方様になら分かります故」

 愛美は、建物の中に半ば押し込まれるようにして入れられた。住職はその戸を閉めながら、最後にこう言った。

――いつか貴方様と御当主殿の話が出来れば、それは私にとって良い慰みとなりましょう。


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