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第二章 March of Ghost 10

 そんな無茶なと思いつつ、愛美まなみ長門ながとへの対抗意識だけで走った。だが山道の50m疾走なんか、二度とするものかと愛美は誓う。

(私を殺す気か、この男)

 走る愛美のすぐ側の茂みで、ガサリと物音がした。愛美には確かめている暇などなかったが、長門がすかさず動いた。愛美は思わず悲鳴を上げてその場に蹲る。轟音が響き、一斉に鳥達が空へと舞い上がった。間を置かず、長門の怒声が飛ぶ。

「グズグズするな、走れ」

 長門はそう言いながら、銃倉から弾丸を抜いて、別の何かを手早く装填した。愛美は恐怖に顔を引き攣らせながら、走り出す。

 長門の銃が、再び火を吹いた。愛美の側で、この世のものとも思えない悲鳴が起こる。愛美は喘ぎながらも、何とか長門の側まで辿り着いた。

「わ・・たしを・・・殺す気!」

「馬鹿め、よく周りを見てみろ」

――囲まれているぞ。俺達が十分人里から離れるのを、待っていたらしいな。

 愛美は、長門の言葉で初めてそれに気が付いた。土色をした奇妙な生き物。背丈は愛美の膝程しかない。蛙のように飛び出した目が、不気味に赤く光っていた。杉木立の合間に、幾つもの顔が覗いている。それらは枝を蹴ると、一斉に二人めがけて牙を剥き出した。

(もう嫌だ。こんなのばっかりじゃないのよ)

 長門はその一つに狙いを定めると、引き金を引いた。静かな山合いに銃声が谺する。続く悲鳴と、ドサリと地面に落ちる音。長門が銃を向ける度に、その生き物達は確実に数を減らしていく。それにしても、この男凄すぎる。全て一発で仕留めている。

「一体、あれ何なの?」

「知らない。後で綾瀬にでも聞け」

 だが、やっぱり嫌な奴に変わりない。最後の一匹を始末し終えると、長門は何もなかったかのような顔で、銃を収めた。

下は変わらずに皮パンツだが、黒いTシャツに愛美がドラマでしか見ない刑事がつけるようなホルダーをしていて、その上からカッターシャツを羽織っている。

(本当にボディーガードなのね、この男)

 愛美は、ただのアル中で嫌な奴と言う考えを改めることにした。

 いつの間にかあの鴉が戻って来ていて、早く来いと言うように、頭上で旋回している。

「行くぞ」

 木々の間にそれが見えた時、愛美は嫌な予感がした。

 ところどころ欠け落ち、苔蒸した石段。その遥か上方に山門があり、鴉はそこに止まると羽の毛繕いを始めた。

(つまり、上れと言うことか・・・)

 長門は何も言わずに上り始めたが、愛美はその場に座り込みたい気分だった。愛美がその石の階段を昇り終えた時、長門は山門から中には入らずそこで立っていた。門には扁額が掛かっているが、薄れているのと達筆過ぎる為か、愛美には一文字も文字として判読出来なかった。

「これはまた、お可愛らしい。ささ、どうぞ中へ。お待ちしておりましたよ」

 長門から数歩離れた所に、長い年月に薄汚れてしまったのだろう粗末な作務衣に身を包んだ、七十過ぎの禿頭の男が立っている。

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