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第二章 March of Ghost 3

「あの、電気つけないんですか?」

 暗い中で男と二人っきり、と言うのはあまり歓迎できる状況ではない。愛美まなみがおずおずと切り出すと、綾瀬あやせは初めてそのことに気が付いたようだ。

「ああ、済まない。私一人だとつい忘れてしまう。ついでに、窓のカーテンを閉めてくれ」

 綾瀬は立ち上がりながら、愛美にもそう言った。愛美は素直にカーテンに向かったが、

「きゃっ・・」

 何かにつまづいて派手に転んでしまった。

――何なのよぉ、もう!

 愛美は自分の足が踏みつけたものを、平手で叩いた。クッションらしい。

「大丈夫か。その辺には、よくクラディス専用のクッションが落ちているんだ。君は案外ドジなんだな」

 綾瀬はそう言いながら、愛美に近付くと、少女の身体を抱き起こした。仄かな香水の香りが愛美を包み込む。大胆で少し野性味を感じさせるエロティックな匂いは、彼の持つ雰囲気に似合っている。

 愛美は腰にあてがわれた男の手の平の大きさに、ドキリとした。紫苑しおんに抱きしめられた時だって、今ほどは動揺しなかったように思う。綾瀬は何も言わない、ただ愛美を抱く手に力を込めただけだ。

「暗いのに分かる訳ないでしょ。こんな暗い所で、サングラスかけて動き回れるあなたの方が変よ」

 愛美は心臓の鼓動が早鐘を打つのを、隠すかのように乱暴に言った。

「そうだろう。私は視覚に問題があるから、暗くても関係ないからな」

 綾瀬は何でも無いことのように言って、愛美から離れると、自分でカーテンを引いた。

「あっ」

 愛美の口元から吐息が洩れる。全然気が付かなかった・・・。綾瀬の足取りも動作にも全く卒がない。まさか目が見えないだなんて。

「・・・す・済みません。知らなかったんです」

 自然、愛美の声は力ないものになる。カーテンを引かれ、室内は真の闇だった。愛美のすぐ側に綾瀬の気配だけが感じられる。不意に男の指が愛美の顎を捉えた。無理やり顔を上に向けさせられる。

「私を憐れむのかい? 私の目は、完全に失明している訳ではないんだよ。月の光の下でなら、私の目も通常の機能を果たす。日の光の下では生きていけないなんて、さぞかし哀れだろう。私にだって、過去の一つや二つあるんだ。こう長く生きているとね、色々なことがある」

 綾瀬は黒眼鏡を外したようだった。自嘲するような声音で、そう言いながら低く笑う。

「君もここで色々なものを知るだろう」

 掴まれていた愛美の顎から手が放され、綾瀬の気配が遠ざかると明かりがついた。綾瀬はもう黒眼鏡をかけている。愛美は、この男に興味が湧いた。なぜかは分からないが、この男に好感らしきものを覚え、愛美は自分でも途惑った。綾瀬は何食わぬ顔で、愛美にソファに着くように言う。

「最初の任務を与えよう。君の為にもなることだよ。夜久野の終焉の地、関西方面に行ってもらう」

 綾瀬はそう言って微笑を浮かべた。愛美も、ぎこちなくはあったが綾瀬に笑みを返した。

 少女の非日常の日々は、こうして始まった。このSGAで過ごした時期を、愛美は後にこう語った。あれは美しすぎる悪夢以外の、何物でもなかったと・・・。

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