第二章 March of Ghost 1*挿し絵付き
紫苑は不機嫌そうな顔をしながら、茶碗にご飯を盛り上げた。
これでもう三杯目だ。普通は遠慮するものだろうが、彼にそれを期待するのは無駄だった。
「言っておきますけど、私はあなたの家政夫じゃありませんよ」
「ええやん。飯ぐらい食わせてくれたって」
東大寺は、茶碗を紫苑から奪い取り、急須から茶を注ぐと茶漬けにして一気に掻き込んだ。中華風卵の餡かけと豆腐のしんじょと言った、病人にも食べ易い口当たりのいい柔らかな味付けのおかずでは、東大寺の胃のどこに入ったのかも分からないのかも知れない。
「おっちゃんの調子どうなん?」
東大寺は、紫苑の剥いたリンゴに手を伸ばすが、すかさず紫苑に手の甲を叩かれた。
「おっちゃんではありません。神父様です。これはあの人の為に、剥いたんですからね」
紫苑がそう言いながら皿を下げたが、東大寺の方が早かった。リンゴを一切れ口にくわえて、
「神父のおっちゃん、どうしてんの?」
「今日は具合がよろしかったのか、昼の間は起きてお庭の方に出ておられましたよ」
紫苑は諦めて、皿を東大寺の方に押しやった。東大寺が手を伸ばす度に、皿の上のリンゴは一つまた一つと消えていく。
(あの人も、これくらい食べてくれればいいのですがね)
紫苑は胸の中で呟き、溜め息を吐いた。
紫苑は、二年程前この教会の神父に拾われた。ボロボロになっていた自分を看病してくれて、以来こうして教会に住まわせてくれている。
アル・・・アーノルド神父は、紫苑の命の恩人だ。数ケ月前から身体に変調をきたし、それからは寝たり起きたりと言う生活を続けていた。
アルは放っておかれても大丈夫だと言ったが、紫苑はSGA中心の生活を離れ、やっていたモデルの仕事も辞めた。最近では家事だけでなく、日曜の礼拝も紫苑が代わりに取り仕切っている。
それ程までに、アルの病状は深刻だった。彼はもう長くないのではないか。見まいとしても嫌な不安は消せない。
だから、少しでも側についていたかった。
「彼女、選んだで、SGAのメンバーとして生きること」
東大寺は最後の一つのリンゴを口に放り込むと、そう言った。
そうだった。東大寺は愛美をマンションの前まで送った後、紫苑のところにタダ飯にありつきにきたのだ。もう六時を過ぎている。東大寺は腹が一杯になったのか、満足そうな笑顔を浮かべる。
「これからあの子、迎えに行かんか。綾瀬にいじめられて気ぃ落としとるで、多分」




