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第一章 Welcome to my nightmare 35

 三崎高校は七十年近い歴史を有する、県下でも高い進学率を誇る公立高校だ。十年程前に改築された為、そこまで古びていてはいないが、やはり伝統の二文字が重くのしかかっている感じだった。

 どっしりとした門構えに、常緑樹が影を落としている。その前で、数人の人間の諍い合う声が聞こえてきた。関西人の悲しいさがか、東大寺とうだいじはそれを見ると野次馬根性を丸出しにして、その場に近付いて行った。

 愛美まなみが、東大寺の後に続いている。図書館での会話から、小一時間程が経っていた。あの後二人は電車を乗り継ぎ、この三崎高校までやって来た。

 当然東大寺の奢りだが、彼は後で綾瀬に払わせるつもりでいた。何せ独り暮らしは金がかかる。

「絶対に、ガス爆発なんかじゃないって!」

「は-ん。それでお前は、犬の幽霊にやられたって言うのかよ」

「中岡、もう止めとけよ。お前が、サッカー出来なくなってむかついてるのは、分かるけどさ。そんな馬鹿なこと言ってたら、頭おかしいって思われるぜ」

 白の開襟シャツ姿の男子生徒が五人。門から少し入った所で、お互い一定の距離を保って立っている。かなり険悪な雰囲気が漂っている。

 と言うよりも、一人の男子が一方的に突っかかっていて、それを他の仲間達が宥めていると言った構図らしい。その中岡と呼ばれた少年は、両脇に松葉杖に支えられて立っていた。頬に大きなガーゼが当ててある。

「何ならここで見せてやるよ。どう見たってこの傷は、犬の牙の跡だって認めさせてやる」

 中岡少年はそう言いながら、袖をまくった。白い包帯に包まれた腕が現れる。他の少年達は、彼の傷が相当にひどいことを聞いていたのであろう。その状況に色を失くした。しかし、中岡は包帯を取ることはなかった。

「中岡・・・。もう、サッカー出来ないの。違うよね。すぐ、治るんでしょ?」

中岡が、ハッと顔をこわばらせて動きを止めた。

「愛美・・・!」

 愛美のクラスメイトの、中岡愼一だった。普段喧嘩ばかりしていたが、無事な姿を見ると、愛美は泣きたいような気分になった。固まっている二人に、少年達は互いの身体を突つき合う。好奇心に満ちた目で愛美を見ながら、B組の女子だよなと確かめ合っている。

「愛美って、お前が好きだとか言ってた、近どう・・・」

「うるさい、黙ってろよ!」

 部活仲間の揶揄からかうような言葉を、中岡がきつく遮った。彼が本気で怒っているらしいことを感じると、少年達もそれ以上何か言おうとはしなかった。ただ黙って成り行きを見守っている。中岡が呟くように言う。

「やっぱり、お前は生きてたんだ」

 中岡は唇をぐっと噛み締めた。ギリッと音がして中岡の唇に、血が滲む。

「何で死ななかったんだよ。何でお前だけが生きてるんだよ。お前の親も弟も死んだんだろ。委員長も松本も吉田もみんな死んじまったのに・・・何でお前が生きてんだよ。お前の所為だろうが、お前の所為で・・・俺の足も・・・・」

 少年は一気にそう言うと、押し黙った。彼はその言葉を言っている間、一度も愛美の顔を見なかった。愛美は青冷めた頬で、意外にもこう言った。

「ごめん・・・」

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