第一章 Welcome to my nightmare 27
あの女。何が起こったかも気付かずに、死んだことだろう。
色が白く、ふっくらとした身体付き。大きな目を不思議そうに見開いたまま、崩れ落ちた。もっと苦しめてから殺せば良かったと、大和は呟いた。その時、廊下の方で足音がした。大和の顔にゆっくり笑みが広がったのに対して、男の顔からは血の気が引いていった。
『お母さん、喉渇いた』
寝癖のついた髪を撫でつけながら、年端のいかない少年が現れる。熱のあるらしい赤い頬をして、寝ていたのか瞼が浮腫んでいた。
玄関の死体には気付かなかったようだ。父親の哀れな姿と、その前に立つ大和に気付くと、少年は色を失くした。
『可愛そうに。自分の姉だと思っていた人間が、実は赤の他人で、あろうことか自分の本当の姉を殺したなんて、君は思いもよらなかっただろうな』
少年は更に顔色を変えるが、食って掛かって来た。
『なっ。勝手なことを言うな』
大和はすかさず呪を唱え、男の口を封じる。突然苦しげに身悶え始めた父親に、少年は大和の顔を怯えたように見つめた。
『十年前。君の実姉は、ある娘の身代わりとして死んだ。君が十年間一緒に暮らしてきたのは、君のお姉さんを死なせた張本人で、養女としてこの家に入り込んだ。そいつの名前は、夜久野真名と言う。今の君の姉さんだ。君はずっと騙されていたのさ。可愛そうに。君達家族は、あの娘の所為で、こうして苦しまねばならない。夜久野の連中に苦しめられた、この僕のように』
話している内に感情が激してくる。大和は拳を固く握り締めていた。少年は掠れた声でただこう言った。
『お姉ちゃんは、お姉ちゃんだ』
大和は両手を組んで印を結ぶと、少年をきつく睨んだ。その目が、少年を馬鹿だと言っている。
『死にたくはないだろう。お前がこんな目に合うのは、全てあの娘の所為だ。言え。あいつは姉じゃないと。あの娘は夜久野の・・・化け物の血を引いているんだぞ』
怯えていた少年の身体の震えが止まり、少年は真っ直な目で大和を見た。
『お姉ちゃんを悪く言うな!』
その表情は子供のものではない、大人の――否、男の顔だった。大和は苦し気に顔を歪める。押し出すように言った呪文により、少年の首が飛んだ。
命と言う支えを失い、少年の身体はただの物体となって転がる。
『もう、止めてくれ』
家族が殺されていくのに、自分が何一つ出来ないもどかしさに男は、男泣きに泣いた。
大和は何もかもが、どうでもよくなってくるような気がした。冷ややかに男を見下ろしながら、最後にするつもりで訊いた。
『それでも、まだ自分の娘だと言うのか?』
『あの子は、何と言われようと私達の娘だ!』




