第一章 Welcome to my nightmare 23
「君のことは少し、調べさせてもらった。・・・夜久野一族が何者か、紫苑は言わなかったかな」
「陰陽師の家系」
愛美は青年の言った言葉を、簡潔に伝えた。綾瀬はそうだと言うように、強く頷く。
「君の家は、その夜久野家の遠縁にあたるらしい。血筋を辿るのにかなり苦労したようだが、それは間違いないようだ」
(それが、どうしたと言うのだろう?)
愛美の親友の優子は隣のクラスに、はとこがいるらしいが、高校に入るまでそんなことは知らなかったと言っていた。
親戚など、何処で血が繋がっているか判ったものではないし、そうなると遠戚など他人も同然だ。陰陽師と言う言葉の響きは如何にもいかがわしいが、神社の神主や何かと同じだと考えれば大したことはない。
それが一体、どうしたと言うのか。
愛美の苛立ちを、綾瀬は気付いているのかいないのか。綾瀬は感慨深げに言う。
「十年前、夜久野は滅んだ」
それなら、あの青年も言っていた。
――だから、それがどうしたって言うのよ。
綾瀬が、愛美をまじまじと見つめている。知らず知らずの内に、口に出して呟いていたらしいと愛美は気付く。
「気の強いところは、お祖母様譲りだね」
綾瀬はそっと微笑を洩らした。
(この男は、一体何を言っているのだろう)
「おばあちゃんなんて、知らないわ。どちらも私が生まれる前に、亡くなったもの」
そう言った愛美の胸に、何か引っ掛かるものがあった。
愛美の心の中、桜の花弁が舞い散る。
愛美は何かを思い出せそうな気がして目を細めるが、それは風に飛ばされるようにしてすぐに消えてしまった。
「さて。十年前、夜久野は滅んだ。当主とその家族、そして彼らに仕えていた者全てが、一夜にして惨殺された。その中には次期当主となる筈の、当主の幼い孫も含まれていた。当時、まだ六才だった。それが夜久野真名、君だよ」
愛美はぎょっとして立ち上がると、怒りに任せてテーブルに拳を叩きつけた。茶器が音を立ててぶつかり合い、ルビー色の液体が飛び散る。
「巫山戯たこと、言わないでよ!」
まなじりを上げて綾瀬を睨みつける愛美に、綾瀬は気分を害したふうはない。不機嫌な唸り声を立てるクラディスを、優しくあやしてやっている。
そして。
「そう。確かにそれは巫山戯たことだ。君は夜久野真名じゃない」
至極落ち着いた声で、そう言った。愛美は拍子抜けして、再びソファに腰を落とした。
この男がさっきから何を言おうとしているのか、愛美には全然分からない。夜久野真名だと言ったり違うと言ったり。愛美の反応を楽しむかのように、綾瀬は話を続けた。




