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第一章 Welcome to my nightmare 19

 まだ午後の四時前だと言うのに、外はもうかなり暗くなっている。雨が降っている所為だ。だがしかしロビーの中は、電灯に照らされ皓々と明るい。

 瑞穂みずほは、先程から気が気でならなかった。会社のロビーなど、瑞穂のような年頃の少女が、似合うような場所ではない。

 大抵の大人達はそれどころではないらしく、ロビーの片隅に立つ自分などには見向きもしないが、中には訝し気な視線を向けてくる者もあった。

 こう言う時、式神の天竜てんりゅうがつくづく羨ましくなる。式神は普通の人間には見えないが、天竜は主人に合わせて大人しく、まるで剥製の置き物のようにしていた。その失った前足に巻いた包帯が、血で赤く染まっている。

 彼らの命も姿も紛い物だが、吹き込まれた呪力と言う命が尽きるまでは、普通の生き物のように怪我もするし血も流れる。

 瑞穂も胸の傷が疼くのを覚え、黒いシャツの胸元を押さえた。

「お兄ちゃんが来るまで、ちゃんと待っていようね」

 瑞穂はそう言って、天竜の頭を撫でた。

  *

「誰が殺せと言った!」

 静かな罵声とともに、ぴしっと乾いた音が頬の上で弾けた。青年は目を伏せて、平手打ちを受けた右頬の痛みに耐えている。

 殺そうとしたが無理だった。そう告げた途端に、いきなりこの仕打ちだ。

 ブラインドの降りた部屋、雨の音だけが辺りを支配している。

 二人の男は、無言で対峙したまま立ち続ける。

 大和やまとは頬を押さえていた手を下ろし、恨めし気に唇を噛んだ。誉めて欲しいとは言わない、だがせめて労いの言葉ぐらいはと思う。

「我等程度の能力で死ぬようならば、夜久野やくのの名を名乗るには程遠い。那鬼なき様の手を、煩わせるに及ばぬと思ったのです」

――まさか〈明星あけぼし〉を使うとは・・・

 大和の言葉に那鬼は小さく舌打ちすると、眉間に皺を寄せた。

「それはともかく、私が命令に背かれるのが嫌いなことぐらい知っているだろうが。関係者の始末は任せると言ったが、夜久野の孫を殺せと言った覚えはないぞ」

 那鬼は冷ややかな目で青年を見下ろし、大和に背を向けるとブラインドの下がった窓辺に歩み寄った。

「夜久野の孫は、私が殺す。そう言うことだ」

 振り返った男の目に、大和は戦慄を覚えた。背筋がうそ寒くなるような、那鬼の持つ狂気の一端を垣間見た気がして、大和は怯えた表情で面を伏せた。

「申し訳ありませぬ、那鬼様」

 呟くような青年の謝罪に、那鬼は少しだけ表情を緩める。大和の命令違反が、那鬼への忠誠心から出たものである、と言うことぐらい百も承知だ。それはそれだが、あくまで違反は違反だった。

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