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第四章 Over the Horizon 47

『あの頃は良かったな。いつから壊れてしまったんだろう』

『親父が死んで、兄さんが当主になって、俺と兄さんの距離は遠くなるばかりだった。俺は兄さんへの気持ちを取り違えて、乗り越えることに執念を燃やした。馬鹿みたいだ。自分が役に立つ人間だと見せつけてやりたくて、俺は兄さんをこの手にかけ、夜久野を滅ぼした。一度犯した過ちは消せない。次から次へと過ちを繰り返して、俺はもう兄さんの横を歩くことはできない』

 何をしたのか綾瀬も問わなかったし、あきらも言わなかった。聞けなかったし、言いたくなかったのだろう。一度すれ違ってしまった自分達は、もう二度と一緒には歩けないのだろうか。

『お前を破滅させたのはこの俺だ。お前が俺に一番近い人間だと知っていたからこそ、俺はお前が夜久野やくのを滅ぼすように焚き付けたんだ。本当は自分が一番、上月こうづきに滅んで欲しくないと思っていた』

 今までずっと誰にも言わなかったことを、綾瀬は晃に教えた。

 そうなのだ。晃に汚い仕事を押しつけ、自分は高みの見物を決め込んだのだ。晃の仕打ちは妥当でもあるし、綾瀬への罰でもあると受け止めている。晃は不意に何か思い出したらしい。

『兄さん。これを』

 晃はポケットに手を入れて何か掴むと、綾瀬の手の平に載せようとした。綾瀬の手と晃の手が一瞬触れ合いそうになったが、晃の手は綾瀬を突き抜けていた。

 初めてそれで晃は理解した。街灯の光で晃の足元には黒々と影が落ちているにも関わらず、綾瀬には影がなかった。そこにいるのは綾瀬の実体ではなく、綾瀬の意識が作り出した幻影だ。

『そうか、やっぱり兄さんは最後まで遠い人だった』

 晃は俯いて小さくそう言った。綾瀬は、自分がまたとんでもない過ちを犯したことを知った。せっかくのやり直すチャンスを、綾瀬は自分からふいにしてしまったのだ。

 晃は地を繋ぐ呪文を唱えつつ、手の平のそれを力強く握りしめている。その拳に白い光が宿った。そのまま、晃は綾瀬に手を突き出した。二人の手がほんの一瞬重なり合う。

 綾瀬は手の平の古ぼけたライターに、驚きの含んだ視線を送った。

『これは・・・。俺の』

 綾瀬が父親にもらったジッポのライターだ。二十才の時にもらって初めて使ったそのライターが忘れられず、綾瀬はライターはジッポと決めていた。

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