表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
152/160

第四章 Over the Horizon 41

 東大寺とうだいじは、黙って愛美まなみを見つめていた。愛美は、逃げないと覚悟していた為、東大寺から目を離さなかった。東大寺が箸を置く。

 その顔に満面の笑みが刻まれていた。

「お帰り」

 *

 H型の校舎に挟まれた中庭は、多くの木々に遮られて学校と言うより林の中にいるような感じだ。常緑樹が多いので、裸木はあまり目立たない。

 いつも秋口に沢山の花をつけて甘い香りを振りまく金木犀は、寒風の中を寒さに耐えながら立っている。

 今から二週間前、その木の下で一人の女子高生が死んでいた。

 野沢舞。まだ十五才だった。

 晶子しょうこの親友だ。金木犀の下には、花束やお菓子やぬいぐるみなどが供えられている。

 血痕だって地面に吸われて分からなくなっているが、晶子はあまり木には近付かず、遠くから眺めているだけだった。

 背中を何か鋭い物で一突き。即死だったらしい。

 怨恨の線は薄いので学校に紛れ込んだ変質者による、行きずりの犯行と見なされている。犯人はいまだ見つからず、その手がかりさえない。

 晶子は、どこかに変質者でも隠れているのではないかと恐くなって、辺りを見回した。

 人の姿を認め、驚いて身体を硬くする。しかし現れたのは、晶子と同じ浦羽学園の制服を着た少女だった。

 花束を抱えた少女が誰だか分かり、晶子は身体を緊張させる。

「授業に出ないでこんな所にいると、事件に巻き込まれるかもよ?」

 近藤愛美(まなみ)

 転校生だが、舞の事件があった日からずっと学校を休んでいた。晶子は、愛美が鞄の中にナイフを潜ませていたことを知っている。気分が悪いからと言って保険室に立った愛美を追って行ったまま、保険委員の舞は二度と戻って来なかった。

 二時間目が始まる直前、変わり果てた姿になった舞が教員によって発見され、その後はもう滅茶苦茶だった。

 警察の現場検証や、マスコミなどが押し寄せて、生徒は全員集団下校をさせられ、次の日は休校になった。

「舞を殺した犯人はあなたね。ナイフなんか持ってたし、あの後姿を消したもの」

 晶子がそう言うと、愛美はごく自然に「そうよ、私が殺したの」と言った。晶子の顔が引き攣る。

 晶子は転校生の癖に、調子に乗っているこの少女が嫌いだった。だから、他のクラスメイト達には分からないように陰でいじめたり、ことあるごとに槍玉に上げたりした。

 何が一番気に入らないかと言うと、自分が思いを寄せている宮本裕次が、愛美のことを心憎からず思っているらしいことだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ