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第四章 Over the Horizon 40

 東大寺とうだいじは昨夜遅く、飛行場からタクシーで帰って来た。二人分の食事の用意をして待っていた紫苑しおんだったが、東大寺は一人だった。

 珍しく口数の少なかった東大寺から全ての話を聞き終わるのに、真夜中過ぎまでかかってしまい、紫苑は結局マンションのソファで眠った。東大寺ともども寝坊した紫苑を起こしたのは、長門だ。

 仕事から帰ってきた長門に朝食(彼にとっては夕食か?)の用意を頼まれ、匂いに引き寄せられて起きてきた東大寺と三人で食卓を囲む結果となった。どうせ長門は、この後眠るのだろう。

「淋しくなりますね」

 紫苑は沈んだ横顔を見せながら、湯気を立てている味噌汁を東大寺の前に置いた。全てが出揃うのも待たず、東大寺は御飯を掻き込んでいた手を止め、口をモグモグさせながら言った。

「でも、愛美まなみちゃんにはその方がええ筈や」

 東大寺も寂しそうだが、わざと明るく元気に振る舞っている。彼の場合食べ物さえあれば、嫌な出来事も忘れられると言う特性があるにはあるが。

「そうですね・・・って、ちょっと長門さん、新聞読みながら食事するのは止めて下さい」

 長門はいつも通り仏頂面で、聞いているのかいないのか「うん」と返事をしながら、箸で出汁巻き卵をつついている。そしてポツリと呟いた。

「紫苑・・・家政夫がすっかり板についたな」

 紫苑はむっとして、長門の新聞を取り上げた。つまらないことを言うのは、東大寺一人で十分である。

 長門は仕方なさそうに、食卓にちゃんと向き合うと食事に専念し始めた。

 

 玄関の扉が、開く音がした。紫苑と東大寺、長門が顔を見合わせる。靴を脱いで、廊下を真っ直にリビングに向かってくる軽そうな足音。

 東大寺は、箸を動かす手を止める。

「あれ、ともえか? 何や、久しぶりにSGA勢揃いやんけ」

 リビングの扉が開くと、顔を覗かせたのは巴和馬(かずま)ではなかった。デニムにプルオーバーと言うラフな格好をして、髪を結ってポニーテールにした愛美が照れ臭そうに、そしてどこか誇り高そうに微笑んでいる。

「ただいま」

 紫苑は下を向いてそっと目頭を押さえたが、顔を上げた時は微笑んでいた。

「ご飯できてますよ」

 長門は、ちらっと愛美を見ただけで興味なさそうに食事を再開した。

「朝帰りとは、いい身分だな」

 ぶっきらぼうだったが、いつもより少し優しい響きに聞こえたのは、愛美の気の所為だろうか。紫苑は愛美の分の御飯をよそい、長門は食卓の上に置いた新聞を横目で見ながら箸を動かしている。

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