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第四章 Over the Horizon 39

「君のような年頃の女の子と普段関わらないものだから、私には君をどう扱っていいのか分からなくて。ああ、泣かせてしまった。困ったな。彼に怒られてしまう」

 早良さわらは本当に困った顔をして、泣いている愛美まなみの肩を抱き寄せた。

 幼い頃、愛美を喜ばせようと思って買ってきたオモチャの恐竜に愛美が大泣きした時、父親はどうしていいのか分からずに、困った顔でおろおろと母親を呼んだことがふと思い出された。

 つよし用のオモチャを強奪するので、てっきりそう言う物が好きだと勘違いしたらしい。

 勿論、違う。剛に、意地悪したかっただけだ。

 しかも、まだユーモアのある特撮の怪獣ではなく、リアルな恐竜だったのだから。

(不器用で口下手で、それでいて私を大切に思ってくれていたお父さん)

 愛美は早良の腕の中で、浮かべた涙をそっと拭った。

「これは嬉し泣きです」

 そう言って笑った愛美を、早良は眩しそうに眺めた。愛美の肩を掴んだまま、ゆっくりと自分は身体を遠ざけた。

「君が決めなさい。自分がどうしたいのか。それは君の人生なんだから。最後に選ぶのは、結局君自身なんだから」

 東大寺の言う通り、愛美に必要なのは平凡でありきたりな幸せだ。しかし、一旦外れてしまった軌道を修正することはできない。

 愛美自身が、変わってしまったのだから。もう一度はないのだ。失ったものは二度と元には戻らない。

 愛美は、SGAと言う場所で新しい人生を築き始めたのだ。もう、愛美の生きる場所は東大寺とうだいじ紫苑しおんと同じものだった。

(帰りたい。家に帰りたい)

 愛美は矢も盾も堪まらなくなって、肩を掴んでいる早良の手を掴んだ。

「私、帰りたい。帰りたい場所があるんです」

 早良は少し笑って、愛美の肩を掴んでいた手を離した。黙って頷く。

初音はつねには可愛そうだが、仕方ない。ただ一つ覚えていて欲しい。ここも君の帰る場所だと言うことを。何かあったら、いつでもおいで」

――待っているから。

 愛美は頷くと、バッグに持ち物を詰め直した。初音は、まだ風呂から上がっていないらしい。長湯の癖があって、そこも愛美と話が合いそうだ。

 それでも愛美が出て行ったことを、許してくれるだろうと思った。愛美は早良に、二人分のありがとうを言って、夜の町に飛び出した。

 朝を掴まえる為に・・・。

  *

 御飯を山盛りによそってしゃもじで整えると、紫苑は東大寺に茶碗を差し出した。

 平日の十時過ぎ、遅い朝御飯だ。

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