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第四章 Over the Horizon 32

 目の前のおばさんは急に愛美まなみの手を乱暴に掴むと、走るのよと言った。

『とにかく真名まなちゃんが死んじゃった今は、あなたを家に帰してあげなきゃね』


「あなたは、あの時の・・・」

 愛美はそう呟いて桜の幹から手を放した。愛美の瞳から涙が溢れてくる。

(こんなのってない。こんな真実を今頃知ってどうなるのよ)

 愛美はズルズルとその場に崩れ落ちた。

(私は夜久野やくの真名じゃなかったの? 私は初めから近藤愛美で、誤解から両親と弟は殺され、命を狙われ非日常に放り込まれて、私は・・・私の人生を返して!)

 自分が夜久野真名だと思っていた方が、まだ納得ができた。夜久野の末裔だと言うことが、命の狙われる理由にも自分の中で目覚めた力の理由にもなっていた。それなのに・・・。

 祖母の記憶と言う最後の砦まで失った愛美には、もう何一つ残っていない。近藤愛美だと分かっても、迎えてくれる父も母もいないのだ。

「大丈夫?」

 女は十年前より老けた顔で、愛美を慰めるように背中をさすってくれた。愛美は泣きやむことを知らない子供のように、泣きじゃくった。

 *

 ホームに電車が滑り込んでくる。東大寺とうだいじは、反射的に腕の時計に目をやった。

 四時過ぎ。待ち合わせの六時の約束には、まだ二時間近くあった。約束の時間になっても彼が現れなければ、きっと不安な思いをするだろう。彼はそこまで考えた時に、苦笑いをした。

 自分よりも彼女に相応しい人間がくるのだ。不安になることはない。それに自分は、二度と彼女には会わないのだ。

 開いたドアから、まだ空きのある電車に乗り込み、東大寺は床にバッグを下ろした。

 扉が閉まり、電車が発車する。

 これで当分関西に来ることはないだろう。東大寺は疲れた顔で、目を閉じた。

 

 PM5:46

 愛美は息を切らせて、繁華な京都駅前の広場で足を止めた。

 見上げた電光掲示板は、まだ約束の時間までに余裕があることを教えてくれている。辺りに東大寺の姿は見えなかった。

 愛美は一息ついて、ジュースの自動販売機まで歩いて行った。財布から小銭を出して、投入口に入れる。烏龍茶のボタンを押す。

 冷たい飲み物は、火照った愛美の熱を静めてくれるようだ。

 空缶をごみ箱に入れて暫くすると、今度は身体が冷えてきた。

 冬が近付くにつれ、日が暮れるのが早くなり、もう夜のような暗さだった。昼間は暑いぐらいだったが、夜になるにつれて冷え込んでくる。

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