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第一章 Welcome to my nightmare 13

――お母さん。お母さん・・お・・・母さ

 最後の方は、掠れてしまって声にならなかった。紫苑しおん愛美まなみの肩に手を置いた。振り返った愛美に向けて、手遅れだと言うように首を振って見せる。

(腹部への一撃。殆ど即死ですね)

「辛いでしょうが、全部見届けなくては」

――中に入りましょう。

 紫苑に促され、愛美は重い腰を上げた。愛美の肩を抱くようにして、紫苑はリビングとおぼしき方へと向かう。玄関に入った時から既に、紫苑は人の気配を感じていた。吉と出るか凶と出るか、それは分からない。

 愛美の為にも一縷の望みにかけたい紫苑だったが、扉を開いた彼は苦い吐息を洩らした。

「何とひどい・・・」

 思わず紫苑はそう呟き、傍らに立ち尽くす愛美を気遣うように見た。

「弟です」

 愛美は、居間に転がるそのを指して言った。胴体は頭から少し離れた所に、同じように転がっている。愛美の声音はなぜか穏やかで、まるで慈しむかのような表情だった。

(まずいですね。これ以上こんなものを見せれば、このは壊れてしまうかも知れない)

 紫苑がそう思った時、愛美はハッと顔色を変えた。

「お父さん!」

 その声に紫苑も、壁にもたれるようにして座っている男の存在に気が付いた。

 生きてはいる、生きてはいるが・・・。

 愛美の父親は、四十代半ばだろうか。中肉中背の、なかなか精悍な顔付きをした男だった。

 だがそれも今は見る影もなく、唇は紫に変色し、顔面は白を通り越し蒼白になっていた。その右腕が切断されていて、肩口から先がない。まだ真新しい傷口からは、脈打つように血が溢れている。

 他にも身体中に切傷があり、左の頬もざっくりと裂けていた。腕の傷だけでも、失血死は免れないだろう。紫苑は手当をしても無駄と知りながらも、放っておくことなど出来ない。

「何か止血する為の布を」

 愛美に言い置いて、彼女の父親の許へ寄ろうとした。

「私に近付くんじゃない、側に来ては駄目だ! ・・・私はどうせ死ぬ」

 思いの外しっかりした声で強い拒絶を受け、紫苑は戸惑いながらもそれ以上近付くのは止めにした。何かあるのかも知れない。

「お父さん、死ぬなんて言っちゃだ!」

 愛美が涙を零し、幼児のように首を振っていやいやをしている。それを彼女の父親は、どんよりと濁った死んだ魚のような目で見ていた。

「お前に、父親などと呼ばれる筋合いはない。私達の娘は、とっくの昔に死んでいる」

「お父さ・・・ん? 何を言ってるの・・・」

「お前は私達の娘なんかじゃない。本当の愛美は、お前の身代わりで十年前に殺されたんだ! お前の所為だ。お前の所為で、私達の人生は滅茶苦茶になったんだ」

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