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第四章 Over the Horizon 27

 綾瀬の教えてくれた道は、十年前の事件の後破壊されたとのことで、道らしい道もなく、それらしい場所に出た時には午後を遅く回っていた。

 愛美まなみは、今朝のまだ暗い内から目が覚めてしまい、隣の部屋の東大寺とうだいじの目を覚まさないように支度をして、宿の人に無理を言って旅館を出た。

 始発の電車の奈良行きに乗った時は、まだ辺りは薄暗かった。

 駅の売店で買ったパンと牛乳で朝御飯を済ませ、乗り継ぎを繰り返して吉野に着いた時にはすっかり明るくなっていた。

 ここに来るのは二度目だ。一度目は愛美の隣には仏頂面の長門がいたが、今は愛美一人きり。今度は道案内の鴉もいない。

 時間があれば寄りたいことは綾瀬に伝えて鴉を遣わしてくれるよう頼んだが、そんな些細なことに使うものではないとすげなく断られた。

 案内無しで辿り着ける自信は皆無だが、ダウジング系の呪具は貸してくれた。一見ただの安っぽい方位磁石に見えるが、針は北ではなく一度行った厳照げんしょうの山寺に向くと言う。

 相変わらずひっそりとした駅前を抜けて、愛美は井上厳照の山寺を目指した。厳照の墓参りを兼ねて、どうしてもやっておきたいことがあったのだ。

 綾瀬の説明に偽りはなく、無事に寺に辿り着けた。

 愛美は、スコップまで用意してこなかったことを後悔しながら、厳照の遺体の埋まっている塚山の横に小さな穴を掘った。

 襲われたり何やかやで、愛美は警察に通報することは愚か、厳照を勝手に埋葬して済ませることを不自然に思わなかった。

 これについて綾瀬に聞いたが、結局世間的には有耶無耶にされてしまうだけの物事らしい。元々身寄りのない厳照だとのことで、良くても行き倒れで処理されるだけとか。

 長年過ごした寺の側で寺とともに静かに土に還っていけるなら、その方がいい。

 バッグから二枚のバンダナを取り出して穴の底に置くと、丁寧に土をかけた。短い間だったが、愛美の側にいてくれた右近と左近の為の、ささやかなお葬式のつもりだった。

 愛美は山を下りると、また二時間かけて京都に戻った。ちょうど昼食時だったので、ファストフード店で軽く食事をして、それから綾瀬に電話をかけた。

 綾瀬に夜久野家の墓の在処ありかを尋ねたが知らないとのことなので、愛美は夜久野の家のあった場所を聞くだけでよしとした。

 綾瀬の声が、いつもより沈んだものに感じられたが、愛美は大して気に止めなかった。

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