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第四章 Over the Horizon 18

 東大寺とうだいじは言葉を切ると、愛美まなみの目を見つめた。愛美は疚しさから顔を伏せた。

「東大寺さんの言葉を聞いていると、那鬼なきのことも許せと言われてるみたい」

 東大寺は顔を正面に向けた。暫く黙っていたが、その通りやと呟いた。今度は愛美が、東大寺の顔を喰い入るように見つめる番だった。

「私の全てを奪ったあの男を許せる訳ないじゃない」

「愛美ちゃんを止めることは俺にはできん。ただ、増殖する憎しみを断ち切る方法もあることを知って欲しかっただけや。寒くなるからこれ着とき。もっと母家の近くで、見つからん場所探そ」

 東大寺は、羽織っていたシャツを愛美の肩にかけると、身軽に枝から飛び降りた。愛美を抱き止める為に腕を広げたが、愛美はわざと東大寺から離れた場所に飛び降りた。

 無様に尻餅をついたが、大して痛みは感じなかった。愛美は立ち上がって洋服を払っていたが、東大寺ももう何も言わなかった。

  *

 夜になるとかなり冷え込む。

 あきらは、駅の構内で買ったTシャツだけはトイレで着替えていたが、裾に泥の跳ねたズボンまでには気が回らなかった。

 東京に帰ることも考えたが、背広に入っていた金では新幹線の切符は買えなかった。だからと言って、桐生の家に行くのは気が引ける。

 当主でありながら家を捨てて、上月こうづきの婿養子の事業を手伝う為に東京に出てしまった彼を、家の者は恨めしく思っているに違いない。晃の足はつい上月本家の方に、向かってしまうのだった。

 上月家の当主は、娘婿が事業を興すことも眷族の中の志願者を連れて、東京で会社を設立することにも何一つ口を挟まなかった。

 時代の流れだと達観しているきらいがある。それでも行き詰まった時には、何くれとなく面倒を見てくれる。

 金の無心をするつもりはなかったが、今晩だけでも泊めてもらえれば有り難かった。

 勝手に通用門から中に入ると、母家の玄関には向かわずに離れの方に向かった。誰かに会えば事情を説明するつもりだったが、なぜか人っ子一人出会わなかった。

 抱えている手の者が鍛錬をしていたり、現役を退いた者や世知辛い社会にうまく適応できない若手が、意味もなくウロついていることも少なくない。

 陰陽道が盛んだった頃は数百人の門人を抱えていたこともあると聞くが、ただでさえ広い屋敷は余計にだだっ広く感じられる。

 離れの明かりが見えた。

 座敷の方から、幼い子供の歓声が聞こえる。地味な屋敷の中に、そこだけが花が咲いたような華やかさがある。

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